人間の「愛着と睡眠の関連」は犬にも当てはまるのか?
犬は飼い主に対して、人間の乳幼児と親によく似た愛着関係を持つことは過去の研究から明らかになっています。人間の場合『愛着』に関連する行動は、神経学的な影響を受けていることが分かっています。
そのような神経学的な影響のひとつとして、その人の愛着行動の特徴と、ある種の睡眠パターンは関連していることも知られています。では犬の場合、愛着と睡眠の間に何らかの関連はあるのでしょうか?
この疑問について、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の生科学と動物行動学の研究者が調査研究を行い、その結果が報告されました。
犬の愛着行動と睡眠時の脳波を測定する
同大学では、犬の行動を研究するためのファミリードッグプロジェクトという30年近い実績のあるプロジェクトを運営しています。一般の家庭犬と飼い主が参加登録をしておりデータやサンプルを提供しています。
この度の研究もこのプロジェクトに登録している犬と飼い主の中から参加者が選ばれました。犬たちはさまざまな犬種、サイズ、年齢の合計42頭が、調査のための愛着行動テストと睡眠中の脳波測定に参加しました。
愛着行動テストとは、犬が馴染みのない場所に来た時、短時間の飼い主の不在と再会、見知らぬ人の存在、などの軽度のストレス下における犬の行動を観察することで、犬から飼い主への愛着スコアを算出するというものです。
それぞれの犬の飼い主への愛着スコアが記録された次の段階は、犬が飼い主と一緒に馴染みのない場所で過ごす時の睡眠時の脳波の計測です。
犬の頭部に電極を装着して、その度に撫でる、褒める、トリーツなどの正の強化を行い装置に慣れさせました。マットレスをセットした実験室で犬と飼い主が過ごし、犬が睡眠に入った時の脳波が測定されました。データ収集は2015年から2020年にかけて行われました。
愛着スコアと睡眠のパターンにはっきりとした関連があった!
愛着スコアと睡眠時の脳波にははっきりと関連性が示されました。飼い主への愛着スコアの高い犬ほどノンレム睡眠時間が長い、つまり深い眠りの時間が長くなっていました。この結果は、愛着スコアの高い犬は飼い主の存在を安全や安心と認識しているためと考えられます。
脳波には4つの段階があり、起きている時の脳波はベータ波です。眠るために目を閉じるとアルファ派が現れますがこの段階ではまだ眠りは浅く、知覚的認識や警戒や制御に関連しています。この後シータ波、デルタ波とよりゆったりした大きな波形の脳波が現れ、睡眠が深くなります。睡眠障害を持つ人は高いアルファ活性が見られます。
この実験では愛着スコアの高い犬ほど、アルファ活性が低いことも分かりました。また人間やラットでは、強いストレス下にある時にはノンレム睡眠時のデルタ波が強くなります。
これは回復のための睡眠が必要なことを表します。この実験に参加した愛着スコアの高い犬はノンレム睡眠の時間は長くなりましたが、デルタ波の強度の増加は見られませんでした。これは回復のための睡眠の必要性が低いことを示します。
実験室という犬にとって馴染みのない場所で眠ることはストレスがかかっている状態なのですが、飼い主への愛着が強い犬は飼い主の存在によって安心を得られるため、ストレスからの回復の必要がなく、深い眠りの時間を長く持てたということが分かりました。
まとめ
犬から飼い主への愛着スコアと睡眠時の脳波を測定したところ、愛着スコアの高い犬ほど睡眠時に安心して深い眠りについていることが分かったという調査結果をご紹介しました。
知らない場所にいても、飼い主への愛着が強い犬は安心して眠れるというのは心温まる結果だと感じます。逆に言えば犬がストレスを感じるような状況で、飼い主が安心を提供できないというのは犬にとって悲しいことです。
行動をテストでスコア化して、電極をつけて脳波を測定するという科学的な調査から「犬の愛情」という人間の感情を刺激するような結果が得られるというのは実に興味深いことですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani12070895