犬の食事と健康について飼い主へのアンケート
家畜の動物福祉や食料資源の持続可能性への意識が高まるにつれ、大豆などの代替タンパク質への注目と需要が伸びています。これはペットフードの世界でも同様で、動物性タンパク質を使用していないヴィーガンフードも少しずつ売り上げを伸ばしています。
動物性タンパク質を含まないフードが犬の体にどのように作用するかという研究も数多く行われていますが、その多くは実験施設で条件を整えた上で行われている対照比較調査です。
この度、代替タンパク質のペットフードに関するものとしては初めての大規模調査の結果が発表されました。イギリスのウィンチェスター大学の動物福祉科学と、オーストラリアのグリフィス大学の環境科学の研究者によるものです。
調査は2,600人以上の犬の飼い主を対象にしたオンラインアンケートによって実施されました。どのような結果が得られたのでしょうか。
愛犬に与えているフードのタイプに基づいて比較
アンケートの内容は飼い主と犬の基本的な情報の他に、普段与えているフードのタイプ、動物病院での受診頻度、薬の服用状況、健康状態、疾患や障害の有無などが含まれました。
与えているフードのタイプは、動物性の原料を含まないヴィーガンドッグフード13%、従来の肉をベースにしたドッグフード54%、生肉食33%の3つに分類されました。
この3つ以外の回答は数が少なかったため、この後の分析からは外されました。最終的に2,536頭の犬についてのデータが飼い主による回答から分析されました。
分析に含まれたデータは、回答した種類の食事を少なくとも1年間継続して与えていること、調査の前年に少なくとも1回は動物病院での診察(健康診断含む)を受けていることが条件になっています。
このようにして集められたデータから以下のようなことが分かりました。
- 健康状態を把握する7種の健康指標は生肉食、ヴィーガン食、従来食の順で良好だった
- ただし生肉食のグループの犬の平均年齢は有意に若かったので考慮の必要がある
- 従来食のグループは消化器系の疾患の割合が有意に高かった
- 従来食のグループは他に体重過多、関節、歯周病、肛門腺の問題の割合も高かった
- 従来食のグループは何らかの薬を服用している割合が高かった
- ヴィーガン食のグループは心臓疾患と内部寄生虫の割合が高かった
- 生肉食は全体に健康障害が少ないが、先行研究では栄養不足と細菌汚染が報告されている
これらのことから総合的に分析して、ヴィーガンペットフードは従来の肉ベースのフードや生肉食に比べて、健康的で危険性が少ないと研究者は結論づけました。ただし、疾患との関連についてはさらに研究が必要だとしています。
ヴィーガンフードは本当に一番安全と言い切れるだろうか?
この調査結果を受けて多くの欧米のニュースメディアが「あなたの愛犬もヴィーガンになって健康に!」「愛犬には肉よりも野菜をあげよう!」という、ちょっとセンセーショナルな見出しを付けて記事をアップしています。
しかし、研究者自身が医学的なことについては、飼い主の記憶に基づく調査であるため限界があると述べています。また生肉食については「生肉を与えている飼い主は獣医師から反対されることが多いため、動物病院に行く頻度が低い傾向がある」と注釈しています。
また、犬にヴィーガンフードを与えている飼い主の多くは自分自身もヴィーガンで、そのために自分の犬は健康であるというバイアスがかかっている可能性にも言及しています。
また、従来の肉ベースのフードについては特に注釈は無いのですが、従来のフードと言ってもプレミアムフードと呼ばれる厳選した材料で作られているフードもあれば、原材料に多くの小麦やコーンが含まれている安価なフードもあります。これらを全て一緒にして統計を取るのは無理があるのではないか?という疑問も感じます。
また研究者は、生肉食の飼い主が動物病院への不信感から通院が少ないことを指摘していますが、ヴィーガン食についても同じ傾向はないのか?という疑問もあります。
従来食のフードを与えられている犬が病気の診断や投薬を受けている割合が高いのは、普通に健診や診察を受けているためであって、従来食のフードが危険だということにはつながらないのでは?とも考えられます。
少なくともメディアのセンセーショナルな見出しによって、普通のフードを与えている飼い主さんが不安を感じる必要はないと思います。
まとめ
ヴィーガンフード、従来の肉ベースのフード、生肉食を与えられている犬の健康状態について、飼い主によるアンケート調査を分析した結果と、考察してみたい点をご紹介しました。
食料資源の持続可能性、家畜飼育の動物福祉と環境への負荷を考慮すると、今後は植物性タンパク質をベースにしたペットフードも選択肢のひとつであることは確かです。他の選択肢としては、培養肉、昆虫食、酵母食なども考えられます。
この研究では調査方法の限界と、さらに考察や研究が必要な点が多くありますが、栄養のバランスの取れたペットフードが将来に渡って提供され続けるための研究の段階のひとつだと考えると意義のあることと言えます。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0265662.t019