犬の夜盲症の治療に成功!
人間の目の病気で先天性静止型夜盲症(せんてんせいせいしがたやもうしょう)というものがあります。薄暗い場所で目がよく見えず物の識別ができないため、夜間の外出の制限や照明のない屋内での安全など不便を強いられてしまいます。
アメリカのペンシルベニア大学獣医学部では、2015年に犬に遺伝性の夜盲症が発症することと、それが人間の先天性の夜盲症とよく似ていることを発見しました。さらに同大学の研究者は、2019年に犬の遺伝性夜盲症の原因となる遺伝子変異を特定しました。
そしてこの度、この研究者チームが遺伝性夜盲症を持つ犬の遺伝子療法に成功したという喜ばしい結果が報告されました。
夜間の視力障害に関連する遺伝子
2019年の研究では、遺伝性夜盲症を持つ犬はLRIT3遺伝子の変異を持っており、これた夜盲症に関連していることが特定されました。
LRIT3遺伝子は視細胞(視覚機能のために分化した光受容器細胞)から、網膜の奥深くにあるON双極細胞へのシグナル伝達の役割を担っています。この遺伝子変異によってシグナル伝達が機能しないことが、夜間の視力障害に関係していると分かりました。
この変異は、網膜全体の構造には影響を及ぼさないため失明するには至らず、生涯を通じて進行することもないため、研究チームはLRIT3遺伝子の正常なコピーを供給することで、夜間の視力を回復させることができるのではないかと考えました。
同研究チームはカリフォルニア大学バークレー校の協力を得て、ON双極細胞をターゲットにした遺伝子注入療法を開発し、遺伝性夜盲症の犬の治療を行いました。
治療を受けた犬は網膜に正常なLRIT3タンパク質が発現するようになり、薄暗い場所での迷路実験でも上手く歩けることが確認されました。この治療効果は1年以上持続すると考えられます。
人間の先天性の夜盲症治療への応用も期待
犬の遺伝性夜盲症に関連するLRIT3遺伝子の変異は、人間の先天性静止型夜盲症の特定の症例にも関与していることが分かっています。今回報告された治療方法は人間の患者にとっても関連性があり、遺伝子療法として有望であると研究者は述べています。
研究チームは、この治療法を人間に適用するアレンジをすでに計画しているとのことです。人間の場合、夜間の視力障害がもたらすQOLの低下は犬の場合よりもさらに深刻なため、治療法の開発が大きく期待されます。
また犬の治療においても、1回の治療の持続期間、夜間視力をさらに向上させることができるかどうか、個体によって回復のスピードに差があったことなど、さらに研究が続けられるということです。
まとめ
犬の遺伝性夜盲症のための遺伝子治療の方法が開発され成功を収めたこと、人間の先天性夜盲症の治療への応用が期待できるという研究結果をご紹介しました。
他の多くの病気の研究と同じく、実験動物を使うのではなく病気の犬を治療することが人間の治療方法の開発につながるというのは素晴らしいことです。
このような研究報告を目にするたびに、「犬は人類の最良の友」という言葉がしみじみと実感させられます。
《参考URL》
https://doi.org/10.1073/pnas.2117038119
https://news.berkeley.edu/story_jump/success-treating-night-blindness-in-dogs-could-lead-to-human-gene-therapy/