甘噛みの捉え方、今と昔
子犬の甘噛みについては、人の赤ちゃんがなんでも口に入れてしまう心理によく似ているとされています。口に入れることで、その正体がなにであるかを確認しているようです。
子犬の甘噛みは、ひと昔前まで「早く止めさせる方法」とか「甘噛みはしつけて直す」など、とにかく甘噛みの行為自体がいけないので、犬をしつけ、早期にやめさせるべきだと言われてきました。また、甘噛みを許すと、咬みつく問題犬になる、といったオーバーな風潮もあったほどです。
しかし近年では、幼犬期の甘噛みと、成犬になってからの攻撃としての咬みつきは、別物として捉える考え方が定着しています。この時期に甘噛みを経験させることで、子犬の心の発達を促すといった説もあります。
甘噛みの対象
しかし、子犬が甘噛みをしたいのは、なんといってもあたたかくて匂いのする、人の手や足、顔や髪の毛です。これは本能的なもので、本来なら母犬や兄弟犬とじゃれあったりしている時期ですから無理もないことですね。
ここで教えなければならないのは、甘噛みの対象物。甘噛みという行為は子犬につきものであると理解した上で、人の手や足、顔や髪の毛にじゃれつく機会をできるだけ避け、その対象を人から、ぬいぐるみや犬用玩具に転換して教えなければなりません。
合わせて、歯の生え代わり時期ですから、歯茎が痛がゆいという成長上の理由もわかってあげたいですね。こうしたことからも、やはり「甘噛みをやめさせる」というよりは「甘噛みの心理を理解し、上手にその時期を乗り越える」という解釈の方がフィットしていると思いますが、いかがでしょうか。
手や足への甘噛みで考えられる危険
1.破傷風
破傷風は土壌中に存在する破傷風菌が、傷口から体内に侵入し感染します。破傷風菌に含まれる神経毒「テタノスパスミン」により、様々な神経症状が引き起こされます。症状としては、筋肉がこわばる、口が開かない、けいれん、手足の麻痺など危険なものもありますので注意が必要です。
犬と破傷風の関係はについては、甘噛みをされ傷付いた手のまま、ガーデニングや草むしりなど、土いじりをすることで感染することがあります。また、犬が土をなめたり、破傷風をもっている犬に咬まれるなどで、犬が破傷風菌を保持することがありますから、その場合には甘噛みによって人が感染するケースが考えられます。
2.パスツレラ菌の感染
パスツレラ症はパスツレラ菌による人畜共通感染症です。犬や猫がパスツレラ菌を持っていることが多いですが、犬や猫ではほとんど症状を起こしません。甘噛みにより考えられるのが、人への感染です。
人がパスツレラ菌に感染した場合には、早ければ数時間で受傷部位が赤く腫れ、痛みや発熱を伴います。近くのリンパ節が腫れることもあります。パスツレラ症での受傷部位の炎症は皮下組織の中を広がり、「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と呼ばれます。受傷部位が関節に近いときには、関節炎を起こすことがあり、骨に達するような傷であれば骨髄炎を起こします。
免疫機能が低下している人では、重症化して敗血症や骨髄炎を起こし死亡することもありますので危険です。
3.狂犬病
狂犬病は日本にはないから大丈夫なのでは?と思った方もいらっしゃるでしょう。ここに狂犬病を入れた理由としては、狂犬病を発症する、しないではありません。もし、他人への甘噛みが事故へと発展した場合に、「狂犬病の接種をしているかを問われることがある」とお伝えしたかったためです。
令和2年版の健康福祉事業年報によると、ある都市で起きた犬の咬傷事故(こうしょうじこ)を理由とする届出件数は、平成29年から令和元年度にかけて99件から119件に増加しています。これは成犬だけの咬傷事故だけとは限りません。
犬を飼っていない人にとっては、成犬の本気咬みも、子犬の甘噛みも、同じこととして認識されますから、甘噛みを人の手や足、顔や髪で癖付けてはいけないことがお分かりになるでしょう。
甘噛みのしつけポイント
甘噛みの理由は4つ。「親兄弟と遊びたい」「なんでも口に入れて確かめたい」「歯の生え変わり時期の歯がゆさを解消したい」「本能的に狩りの疑似体験をしたい」です。これをすべて人の手や足、顔や髪の毛を使って対応するのは、人、犬、双方にとってよくありません。
ですから、噛んでもいいぬいぐるみや犬の玩具で、その欲求を満たしてあげることが一番の解決法なのです。甘噛みのしつけを失敗した方や、お悩み中の方の話を伺ってみると、その原因のほとんどは、日頃飼い主が何気なく行っている行為にあります。
知らずしらずのうちに、子犬の本能である「狩りの獲物の動き」をしてしまい、本能を刺激していることが多いものです。ですから、次のような行為に注意して、挙げたような子犬との接し方に注意し、子犬が飼い主に対し甘噛みをする対象を教える必要があります。
- 人の手や足などの体の一部を使って遊びに誘わない
- 袖の広い服、ボタン等装飾、ひらひらと動くような服装をしない
- 長い髪の毛は犬の届かない位置で結ぶ
- 子犬が手を噛み始めたとき、手をひらひらと上にあげたりしない
- 頭や顔など口に近い部分にちょっかいを出さない
- かかとにかじりつく場合は、苦み成分のある甘噛み防止スプレーを使う
(ただし、手に塗布すると犬が人の手を嫌いになりやすいため、おススメしません)
まとめ
甘噛みはどの犬にもつきものの、避けては通れない成長の一部です。子犬が手にじゃれつく姿はかわいいものですから、手で遊んでしまっている方も多いものです。しかし、感染症といった恐ろしい危険もあります。
「まあいいか」と癖付けないためにできる対策は、この本文に書きました。ご参考にされてください。