ペットロスと死別後シンドローム

ペットロスと死別後シンドローム

愛犬や愛猫を喪った後のペットロスがとても重い場合があります。今は直接関係がなくても知識を持っておくと自分自身や周りの人の助けになるかもしれません。

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精神の病気としての死別後シンドローム

窓の向こうの悲しんでいる女性

2021年、アメリカの精神医学会が遷延性悲嘆症(せんえんせいひたんしょう)という精神病理学上の分類を正式に認めました。

これは愛する人との死別の悲しみが長期にわたって癒えることがなく、心身の深刻な不調に進んでしまう精神の病気です。症状はさまざまな形で複合的に現れるため「死別後シンドローム」という呼び方もあります。

米国精神医学会は遷延性悲嘆症の診断基準や評価尺度を発表したのですが、この病気の診断基準が「愛する人と死別したこと」と対象が人間に限定されており、ペットを亡くした人には言及されていないことについて、複数の精神科医や心理学者が疑問の声を上げています。

ペットロスから死別後シンドロームになることも十分にあり得る

首輪とリードと悲しむ男性

死別後シンドロームの症状は、愛する者との死別を受け入れることができず、感情の麻痺、罪悪感、自責の念、睡眠障害、薬物やアルコールの摂取などが挙げられています。

アメリカのクリストファー・ニューポート大学の心理学者は、重度のペットロスで機能障害を経験している395人を対象に行った調査の結果、彼らの症状は人間の家族を喪った人が経験する死別後シンドロームと同じであることを報告し、ペットロスを遷延性悲嘆症の診断基準に含めるべきだと述べています。

また2017年にはハワイ大学の研究者が、ペットを喪った悲しみが複雑性悲嘆や、心的外傷後ストレス障害(PTSD)として及ぼす影響を調査しています。

複雑性悲嘆とは、通常予想される範囲よりも悲嘆に関連する症状や時間が過度であり、生活上の支障をきたしている状態を指します。当時は未だ遷延性悲嘆症という言葉が無かったのですが、この場合は同じものと考えて良さそうです。

この調査では、ペットを喪った人の約4%が通常考えられるよりも深く長い悲嘆を経験したことが分かっています。

昨年発表されたばかりの遷延性悲嘆症の診断基準には、ペットロスは含まれなかったのですが、ペットとの死別は精神の専門家の助けが必要になる場合もあることは、過去の調査結果からも明らかになっています。

ペットロスは人間の家族との別れよりも悲嘆が大きくなる可能性もある

犬のリードとボウル

愛犬や愛猫を家族の一員としていっしょに暮らしている人にとっては、彼らを喪うことは人間の家族を喪うことと同じ重さであることは理解できるでしょう。しかし世間全般を見渡すと、そうではない場合がたくさんあります。

ペットロスで悲嘆に暮れている時に「たかがペットで」とか「代わりの犬を飼えばいいじゃない」と言われて傷ついた経験を持つ人は少なくありません。そのため感情を隠したり閉じ込めたりすることで、悲嘆からの回復が遅くなることがあります。

また、人間の家族を喪った場合に得られる社会的な支援(忌引や見舞金など)もありません。看取りや火葬のために仕事を休む(または休めない)ことでの負担もあります。

ペットの場合には飼い主がやむを得ず安楽死を選択することもあり、それが罪悪感や自責の念につながることもあります。

2020年のペットフード協会の調査では、日本で飼育されている犬と猫の数は計1,800万匹に上ります。ハワイ大学の報告のようにペットロスが深刻な精神的ダメージになる例が4%だとしても、約72,000人が死別後シンドロームになる可能性があることになります。他の種類のペットも含めるとこの数はもっと上がる可能性もあります。

ペットロスから立ち直ることがとても難しいと感じていたり、身近な人がそういう状態になっている時は専門家の力を借りることを検討してみてください。

参考のため、遷延性悲嘆症(死別後シンドローム)の評価ツールはこちらです。基準に当てはまった場合はメンタルヘルスの専門家の診断を仰ぐことが大切です。
https://endoflife.weill.cornell.edu/sites/default/files/file_uploads/pg-13-japanese.pdf

まとめ

空をバックにした犬の横顔

愛する者との死別がもたらす遷延性悲嘆障害は精神病理学上の疾患と認められたが、ペットロスはその診断基準に含まれなかったこと。しかし、過去の研究からペットロスが原因で遷延性悲嘆障害と同じ状態になる例が数多くあることをご紹介しました。

愛犬や愛猫の喪に服したり、深い悲しみや落ち込みを感じるのは決して悪いことではなく必要なプロセスでもあります。しかし心身の状態が日常生活に支障を来たすようであれば、専門家の助けを考えることが大切です。病院では敷居が高いと感じる場合、ペットロス専門のカウンセラーも増えています。

今は必要がない人も心に留めておくと、いつか役に立つ日が来るかもしれません。

《参考URL》
https://endoflife.weill.cornell.edu/sites/default/files/file_uploads/pg-13-japanese.pdf
https://www.psychologytoday.com/us/blog/animals-and-us/202203/can-bereaved-pet-owners-suffer-prolonged-grief-disorder
https://doi.org/10.1080/08927936.2017.1270598
https://www.researchgate.net/publication/338742034_Does_the_DSM-5_Grief_Disorder_apply_to_Owners_of_Deceased_Pets_A_Psychometric_Study_of_Impairment_during_Pet_Loss

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