ジャーマンシェパードの巨大食道症研究
犬の巨大食道症という消化管運動障害があります。食道が肥大して蠕動運動が低下し、食べたものや水が胃に正常に運ばれなくなるという病気です。
生まれつきのものと後天的に発症する場合があり、生まれつきのものは先天性巨大食道症と言います。
母乳から固形食に切り替わる4週齢の頃に、食べ物を飲み込めないことで発見されることが多いと言われています。栄養や水分を摂取できないため、安楽死を余儀なくされることも少なくありません。
成長した場合にも、専用の椅子に直立した姿勢で食べたり飲んだりする直立給餌、1日数回に分けた少量の流動食、投薬などの対症療法が生涯にわたって必要です。また、誤嚥性肺炎のリスクも高くなります。
先天性巨大食道症はジャーマンシェパードに最も多く発症しており、この度アメリカのクレムソン大学の遺伝学の研究者チームが、この病気の遺伝子検査を開発したことを発表しました。
先天性巨大食道症に関連する遺伝子変異体を発見
研究者チームはこの病気に関連する遺伝子を特定するために、先天性巨大食道症の59頭(メス24、オス35)と健康な53頭(メス35、オス18)の、ジャーマンシェパードの全ゲノムスキャンを行いました。
その結果、イヌ第12染色体とメラニン濃縮ホルモン受容体2内の変異体との間に、関連があることを発見しました。この変異体は、食物が消化管内を通過する方法に影響を及ぼすものです。
研究者は先天性巨大食道症には、メラニン濃縮ホルモンのアンバランスが関与していると考えています。また、オス犬は先天性巨大食道症に罹患する確率が、メス犬の約2倍であることも分かりました。
人間の場合、女性ホルモンのエストロゲンには食道と胃をつなぐ括約筋を緩め、食道の平滑筋を開きやすくする、つまり食べたものを胃に送り込む運動性が高める働きがあることが分かっています。
メス犬はエストロゲンのレベルが高いことが、病気の発症を防いでいるのではないかと考えられるそうです。
遺伝子の検査は健全な繁殖のための重要なツール
上にも書いたように、先天性巨大食道症はジャーマンシェパードに最も多いことから遺伝的な素因があることが示唆されていました。
この研究で関連する遺伝子変異体が特定されたことで、性別と遺伝的要因を合わせて75%以上の精度で先天性巨大食道症を発症するかどうかを予測できるようになりました。
遺伝子変異体を持っている犬を繁殖に使わないことで、先天性巨大食道症を持つ犬の誕生を防ぐことができます。他の遺伝病の検査と同様に、ブリーダーにとっての重要なツールだと言えます。
先天性巨大食道症は、ジャーマンシェパードの他にはラブラドール、グレートデーン、ダックスフンド、ミニチュアシュナウザーなど他の犬種でも発症することがあります。
今回発見された遺伝子の変異が、ジャーマンシェパード以外の犬種にも関与しているかどうかはまだ分かっていないそうです。他の犬種については、今後の研究を待ちたいと思います。
まとめ
ジャーマンシェパードの先天性巨大食道症に関連する遺伝子変異体が特定され、有効な遺伝子検査ができるようになったという研究結果をご紹介しました。
ゲノム解析の技術が進み、様々な遺伝病に関連する遺伝子検査ができるようになったのは本当に素晴らしいことです。犬の繁殖に携わる全ての人がこの重要なツールを適切に使って、遺伝病に苦しむ犬が生まれて来ることを防いで欲しいと切に願います。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1010044