救急医療機関でのセラピードッグ介入のリサーチ
医療の場で患者さんの精神的なサポートをするセラピードッグの活躍は広く知られています。
今のところセラピードッグの存在が有効とされているのは、病院や施設に長期的に滞在している人、治療や症状に不安を持っている人、慢性的な疾患を持っている人など、緊急の対応が必要というわけではない例がメインです。
一方で、病気や怪我のために救命センターなど救急医療機関に運び込まれ、強い苦痛を感じている最中の人に対して、セラピードッグがどのような役割を果たすかという研究は今までありませんでした。
この度、カナダのサスカチュワン大学の社会学の研究者チームが、救急医療機関に運ばれた患者に対してのセラピードッグの効果を調査した結果を発表しました。
セラピードッグとのセッション有る無しで比較
調査は、地元の大規模病院の救急治療室の患者198名を対象にして実施されました。患者全員に対して痛みのレベルを1〜10段階で(10を最高レベルの痛みとする)質問しました。これは通常の治療の中でも行われることです。
対象者のうち調査参加への同意を得た97名に、認定済みセラピードッグとハンドラーが近づき10分間のセッションを持ちました。対象者はセッション直後とセッションから20分後に、再度痛みのレベルについての質問を受けました。
残り101名は対照群として、最初の質問の10分後に再度痛みのレベルについて質問を受けました。どちらのグループも各時点で血圧と心拍数が測定されました。
また、どちらのグループも治療処置のため調査が完了できなかった例があり、これらの人々は最終的なデータから外されました。
セラピードッグは患者以外の関係者に対しても良い影響
セラピードッグによる介入の調査結果は予想通りでした。セッションを受けた患者は、セッション後に痛みと不安のレベルが有意に低下していました。セラピードッグと接していない対照群では、痛みのレベルの変化は見られませんでした。
これらの変化に患者の性別や人種による違いは見られませんでした。また、血圧と心拍数については両方のグループ間で大きな違いがなく、セラピードッグ介入の影響は見られませんでした。
しかし、セラピードッグとの短時間のセッションが救急治療室においても、患者の身体の痛みを和らげ気持ちを楽にすることは間違いがないようです。
緊急医療の場では治療の優先度が何よりも高いため、患者の心理や施設の環境は後回しになりがちです。
仕方のないこととはいえ、そのことは患者はもちろん医療関係者にとっても精神的な苦痛になり得ます。患者の苦痛が和らぐことは、医療関係者の負担を小さくすることにもつながります。
またセラピードッグの存在が、医師や看護師らのストレス軽減の効果があると述べている医療関係者もいます。
救急医療機関という特殊な場では制限や配慮も多くなることとは思いますが、犬にも人にも負担のかからない範囲でセラピードッグの活躍の場が広がれば良いですね。
まとめ
救急医療機関において、セラピードッグとの10分間のセッションが患者の苦痛や不安を和らげる効果があったというリサーチ結果をご紹介しました。
具合の悪い時に愛犬が寄り添ってくれることで、気持ちも身体も楽になったという経験を持つ飼い主さんの声はよく耳にします。犬のパワーのすごさを改めて感じさせられます。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0262599