飼い犬のワクチン接種は狂犬病撲滅の重要なキー【研究結果】

飼い犬のワクチン接種は狂犬病撲滅の重要なキー【研究結果】

飼育されている犬が狂犬病のワクチン接種を継続して受けることが、人間にとっても動物にとっても有効であるという研究結果が発表されました。犬を飼う全ての人が知っておかなくてはならないことです。

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飼い犬への狂犬病ワクチンが人への感染を予防する

犬にワクチンを打つ獣医師

世界の多くの国では狂犬病は今も身近な感染症で、年間推定5万9千人の人々が狂犬病によって命を落としています。臨床症状が現れると致死率100%という恐ろしい病気ですが、幸いなことにワクチン接種で予防することが可能です。

狂犬病の感染源のメインは犬ですが、アフリカの国々など野生動物の多い地域ではジャッカルなどの野生動物の狂犬病罹患率が高い場合があります。そのような場所では飼い犬にワクチン接種をしても感染予防の効果は低いのではないか?と思われがちです。

しかし、この度イギリスのグラスゴー大学生物多様性研究所とタンザニアの研究施設が共同調査したところ、タンザニアで犬のワクチン接種を継続的に行っていた期間、野生動物の狂犬病感染が確認されていたにも関わらず、人間と家庭犬の狂犬病発生率が低下していたという結果が報告されました。

野生動物の多いタンザニアにおいても犬へのワクチン接種が有効

野生のジャッカル

アジアやアフリカの国々では、人間が狂犬病感染によって亡くなる場合の99%以上は犬に咬まれたことが原因となっています。

家庭犬へのワクチン接種がこれらの悲しい結果を防ぐために効果があることは長年に渡って訴えられているのですが、狂犬病が発生している国においては、いくつかの理由によって行き渡っていません。

そのひとつが「犬に注射をしても野生動物から感染するかもしれないから無駄ではないか?」という懸念が根強いことです。

研究者はこの懸念に応えるべく、タンザニアでの狂犬病の感染について調査を行いました。同国では動物の狂犬病報告の40%以上を野生動物のジャッカルが占めています。

研究チームは2011年から2019年にかけて、タンザニア南部の13地区からデータを収集しました。動物に咬まれて医療施設にかかった人(=狂犬病に曝露された可能性がある)に聞き取り調査を行い、咬んだ動物が狂犬病に罹っていたかどうかを判断するというものです。

これによって狂犬病の感染が野生動物においても持続しているかどうか、野生動物が狂犬病撲滅の障害となりうるかどうかの証拠を得ることができました。

タンザニアでは2010年から狂犬病ワクチン接種キャンペーンが実施されていました。研究期間中の2011年は人と動物の狂犬病発生件数は最高の218件に上りましたが、ワクチン接種の継続に伴い、2017年にはわずか15件の最低値にまで減少しました。この期間中も野生動物の狂犬病感染率に大きな変化はありませんでした。

人間が狂犬病に感染する場合の56%は飼い犬によるもので、飼い犬は野生動物と接触することで感染します。つまり家庭犬へのワクチン接種によって、人間への狂犬病感染のリスクは大きく減少することが分かりました。これは野生動物に咬まれて感染する人の割合が比較的高い地域においても同じでした。

このように家庭犬が狂犬病のワクチン接種を受けることは、公衆衛生上の大きなメリットがあります。しかし2017年、タンザニアの狂犬病ワクチンキャンペーンは一旦終了し、狂犬病の発生は再び増加しました。皮肉なことにワクチンの効果が実証されてしまった形です。

同国では2018年から再びワクチンキャンペーンがスタートして継続されています。集団免疫を獲得する目安と言われる接種率70%を目指し、多くの人が尽力しています。

狂犬病ワクチン接種率が低下している日本の危険な現状

犬の鑑札と注射器とシール

アフリカ大陸のタンザニアという野生動物が身近な国においてさえ、家庭犬がワクチン接種を継続することで全体の狂犬病発生率が低下したことが分かりました。一方で日本はどうでしょうか?

「日本には狂犬病はないでしょう?」「日本は狂犬病清浄国だから関係ない」と思っている人も多いのが現実ですが、日本も過去には狂犬病の流行を経験している国です。つまり、狂犬病ウイルスがどこかに潜んでいても全くおかしくないということです。

日本の犬の狂犬病ワクチン接種率が年々低下していることも、長年に渡って危惧されてきました。登録されている犬のワクチン接種率は全国平均で70%に達していますが、登録しないで犬を飼っている人も多く、未登録の犬を合わせた場合には50%程度だと考えられています。

さらにコロナ禍をきっかけにワクチン接種を止めた飼い主も多く、数値はもっと低い可能性もあります。

狂犬病は人間をはじめ、コウモリ、ネズミ、猫、アライグマ、ハクビシン、サルなどほとんど全ての動物に感染します。外国から来た船に狂犬病に感染したネズミが潜んでいる可能性も低くはありません。

日本の狂犬病ワクチン接種率の現状で、何らかの形でウイルスが入り込んだ場合あっという間に流行すると考えられます。

日本よりもずっと野生動物が多いアフリカの国でさえ、犬へのワクチン接種が狂犬病を予防することが実証されています。全ての飼い主が狂犬病を関係のないことと思わず、リスク管理=ワクチン接種を徹底することが重要です。

まとめ

ワクチン注射中の犬

タンザニアにおいて飼い犬への狂犬病ワクチン接種を継続した結果、野生動物の多さにも関わらず、犬も人も感染数が大幅に減少したという研究結果をご紹介しました。

狂犬病のワクチンは、致死率ほぼ100%の恐ろしい病気を安全で効果的に予防する簡単な方法です。副反応が心配な方は集団接種を避けて、かかりつけの獣医師と相談して予防処置を受けるという方法もあります。

「まだ小さいから」「老犬だから」「病弱だから」など自己判断で勝手に接種を止めることは決してしないでください。大切な愛犬、自分自身と家族、地域の人々を守るためにも、狂犬病ワクチンを真剣に捉える人が増えるよう願います。

《参考URL》
https://doi.org/10.1111/1365-2664.13983
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/07204/a3.pdf
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/01.html

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