ペットフードの原材料に絶滅危惧種のサメ?
愛犬や愛猫が毎日食べているペットフード、その原材料を気にかける人は多いと思います。中でも犬や猫にとって重要な栄養素である、動物性タンパク質の種類や内容は関心の高い問題です。
先ごろ、シンガポールのイェールNUS大学とシンガポール国立大学の生命科学の研究者が発表したペットフードに関する調査結果は、普段私たちが気にしているのとは違う視点の、しかし非常に考えさせられる問題を明らかにしました。
それは市販のペットフードに、絶滅危惧種のサメが含まれているというものでした。愛犬や愛猫の存在を通して、フードの表示規制さらには環境や生態系といった問題を考えます。
フードに含まれるDNAを分析した結果
研究チームは16ブランド45種のペットフードを購入し、調査しました。これら45種のペットフード全てにおいて、原材料一覧にサメと表記されているものはひとつもありませんでした。
原材料に魚を使っていると示されているフードでは、その表記は「魚」「海洋魚」「白身魚」など具体的な種類が明示されていないもの、「マグロ」「サーモン」など具体的な種類で表記されているものがありました。
また、原材料に魚が全く表記されていないフードも45種の中に含まれ調査されました。
これらのフードに含まれるDNAを抽出しシーケンス(DNAの基本構成単位であるヌクレオチドの正確な配列を決定する)して、144のサンプルが識別されました。その結果、31%に当たる45のサンプルにサメのDNAが含まれていたことが分かりました。
最も多く識別された上位3種はヨシキリザメ、クロトガリザメ、ネムリブカでした。このうちクロトガリザメは絶滅のおそれがあるとして『野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)』の附属書に掲載されています。
ヨシギリザメは絶滅の脅威にさらされている種として分類はされていませんが、乱獲のために数が減少しており、漁獲量の規制が必要だという科学的な証拠が報告されています。
なぜペットフードにサメ肉が使われることが問題なのか
「ペットフードに魚としてサメが使われていてもウソではないし、犬猫の害になるものでもないのに何がいけないの?」と思われるかもしれません。
サメは世界中で乱獲されており、個体数は過去50年間で70%も減少しています。サメは食物連鎖の頂点にいる捕食者であり、その数の減少は他の生物のバランスや海洋環境に大きなダメージをもたらします。
また絶滅危惧種として取引が規制されている種が、ペットフードに使われていることは明らかに問題です。ペットフードを与える側である飼い主には、野生動物や環境の問題に配慮する人も少なくありません。
そのような人々が、ペットフードのラベルの表記が「海洋魚」「白身魚」としか書かれていないために、環境に配慮した決定を下すことができないというのも問題です。知らないうちに絶滅危惧種の乱獲に貢献しているとしたら怒りと悲しみを感じる人も多いでしょう。
研究者は、ペットフードに使われるサメの肉は価値の高いフカヒレを採った残りの部分が使われている可能性にも言及していますが、それだけが唯一の理由とは考えにくいとも述べています。
現在、世界中のサメ種の4分の3が絶滅の危機に瀕していることを考えると、サメはペットフードの原材料として適しているとは到底言えません。
まとめ
シンガポールで行われた調査で、ペットフードから絶滅危惧種を含むサメのDNAが識別されたという結果をご紹介しました。
ペットフードの原材料のラベルが具体的な種を示さず、漠然と「魚」「肉」と表記するだけで許されているのは日本も同じです。消費者が正しい情報に基づいて選択することを可能にするためにも、メーカーと業界規制団体の改善が求められます。
また消費者も、原材料が具体的な種を示しているフードを購入すること、不明な点はメーカーに問い合わせることなども、消費者が何を求めているのかを示すためにも大切です。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fmars.2022.836941