犬のコミュニケーションは「ニオイ」が大切
人間の場合、五感の中でも特に多くの情報を得られるが視覚ですが、犬では視覚よりも嗅覚の方が大きな役割を果たしているといわれています。
縄張りを主張するために尿を吹き付けてマーキングを行うのも、ニオイを利用しているからです。
犬同士がお互いのお尻のニオイを嗅ぎ合うのも、お互いをニオイで確認している行為です。
犬の肛門の近くには肛門腺というとても強烈なニオイの分泌物を作る組織があり、そのニオイが個体ごとに異なるので個体を識別する情報源になるのです。
肛門腺は分泌物が溜まり分泌できない状態で放置すると破裂するため、定期的な肛門腺絞りが必須であると誤解している飼い主さんもおられるようです。
今回は、肛門腺絞りの必要性や肛門腺に分泌物を溜めたままにするリスクなどについて解説します。
肛門腺絞りって何?必須なの?
スカンクが身を守るためにお尻から発射する強烈な悪臭の分泌物も、肛門腺で作られたものです。
犬も、とても驚いたり興奮した時に自然と肛門腺から分泌物が排出されることがありますが、一般的には排便時に便が押し出すことで排出されます。
そのため、肛門腺に分泌物が溜まってしまうことはありません。
しかし、以下のような状態の犬もしくは犬種は、排便時に分泌物を排出できずに肛門腺に溜まってしまう場合があります。
- 肛門括約筋が未発達の子犬もしくは低下した肥満犬
- 高齢犬
- チワワ、ミニチュアプードル、トイプードルのような小型犬
肛門腺に分泌物が溜まると、犬は不快感を感じてしまいます。
そのため、お尻の周囲を舐める、噛む、後肢を前に投げ出すようにしてお尻を地面に擦り付ける、自分の尻尾を追い回すなどの行動が見られます。
肛門腺絞りは、このような場合に必要になるのです。
肛門腺に分泌物が溜まったままにするリスク
1.肛門嚢炎
肛門腺は袋のような形をしているため、肛門嚢(のう)とも呼ばれていて、肛門の少し下側の左右斜め下の場所に1つずつ、合わせて2つある組織です。
時計盤の中心が肛門だとすると、4と8あたりの場所です。
肛門腺には細い導管がありそこから分泌物が排出されます。
しかし導管が詰まって分泌物が中に溜まり細菌が感染すると、炎症を起こして肛門嚢炎になります。
排便時に分泌物を排出できない子犬、高齢犬、肥満犬、小型犬などが発症しやすい病気です。
愛犬がお尻を気にしている場合は、動物病院で処置をしてもらいましょう。
その時の状況に応じて、適切に処置をしてくれます。
2.肛門腺破裂
肛門嚢炎に気付かずにそのまま放置してしまうと膿瘍に変化し、発熱や食欲低下の症状もあらわれます。
さらに進行し続けると皮膚が自壊し、穴が開いて中から膿汁や血が出て愛犬もつらい思いをすることになります。
なお頻繁に絞りすぎるのも、かえって肛門腺を傷つけて炎症を誘発するため問題です。
必要以上に行うのは、愛犬への強いストレスにもなります。
愛犬の肛門腺の状況を見ながら、適切なタイミングで行ってください。
肛門腺の絞り方
自宅でのケア
<準備>
肛門腺の分泌物は、形状も色も、個体によってさまざまです。共通しているのは、強烈なニオイがすることです。
周囲に何もない場所と、ティッシュ、ウェットティッシュなどを用意しましょう。シャンプーの際に行うのも良いでしょう。
<肛門腺絞り>
尻尾を上に持ち上げます。この時、少し尻尾を頭の方に軽く引くようにすると、肛門腺を確認しやすくなります。
その状態で、反対側の手で肛門腺を触ります。肛門の少し下側の左右斜め下にある、ぷよぷよとした感触が肛門腺です。
肛門腺の外側に指を置いて押し込み、その状態で肛門腺をはさみ、肛門の方に押し出すように分泌物を排出させます。
勢いよく飛び出すことがありますので、上からティッシュなどで覆っておくと良いでしょう。
強く押しても出ない場合は、肛門腺ではないか分泌物が溜まっていない状況です。
<後処理>
お風呂場で行う場合、最後にシャワーで洗い流します。
そうでない場合は、ドライシャンプーやウェットティッシュなどできれいに拭き取りましょう。
動物病院やトリミングサロンでのケア
定期的にトリミングサロンに通っている場合は、一緒に肛門腺絞りをやってもらうことができますので、頼んでみると良いでしょう。
再診であれば肛門腺絞りをやってくれる動物病院も多いです。
診察や検診の際に「もし肛門腺に溜まっているなら絞ってください」と声をかければ、絞ってもらえます。
また、トリマーや看護師、獣医師から肛門腺の絞り方を教えてもらうこともできますので、気軽に声を掛けてみることをおすすめします。
まとめ
肛門腺は、肉食の哺乳類が持っている器官で、ニオイで相手とコミュニケーションを図る動物たちにはとても大切な器官です。
通常は、排便時に便が押し出してくれるため、肛門腺の中に分泌物が溜まってしまうということはありません。
しかし、子犬、高齢犬、肥満犬、小型犬や、慢性的に下痢気味の犬などの場合は、排出できていないことがあります。
そういう場合は肛門嚢炎などの予防として、状況を見ながらご自宅で肛門腺絞りのケアをしてあげましょう。
嫌がってさせてくれない、うまく絞れないといった場合には、かかりつけの動物病院やトリミングサロンで気軽に相談してみましょう。