犬は家族の犬の死にどのように反応するかを調査
複数の犬を飼っていて、そのうちの1頭を看取った時に残された犬は人間と同じように悲しむ様子を見せるでしょうか?このような状況を経験したことのある方の多くは「もちろん悲しむ」と答えると思います。
しかし野生のイヌ科動物では、死亡した同種の動物に対しての行動反応はめったに観察されず、ペットの犬が同種の死を悲しむという科学的な証拠は文書化されていないのだそうです。
この度、イタリアの獣医師を中心にして、イタリア、カナダ、スイス、ポルトガル、イギリス、ベルギーの心理学、社会学、獣医学などの研究者たちがオンラインアンケートを使って、家族の犬を喪った人間と犬両方の死を悼むことに関連する行動を分析し、その結果を発表しました。
アンケート回答者と愛犬たちの関係
アンケートはイタリアの参加者を対象としてSNSなどで回答者が募集されました。2頭以上の犬を飼っていた時に、そのうちの1頭を看取った経験のある426人の回答が分析されました。
回答者の年齢は18〜70歳、女性384人男性42人でした。回答者の66.4%がアンケートに回答する1年以上前に犬を喪っていました。
回答者のうち92.5%が、飼っている犬たちの一緒に暮らした期間が1年を超えていました。犬と飼い主の関係は「友好的」「親子のよう」などいろいろな表現が当てはまりましたが、全員が良好な関係を持っていました。
犬同士の関係は、一緒に寝る66%、喧嘩をしない54%、グルーミングし合う27%、一緒に遊ぶ49%、食べ物を分け合う36%、おもちゃをシェアする58%で、犬同士が一緒に何かをしたり共有することはないと答えた人は9%でした。
一緒に暮らす犬を喪った後、残された犬の行動
このように、飼い主とも同居の犬とも概ね良い関係を築いていた犬が亡くなった時に、残された犬の反応には次のようなものがありました。
- 飼い主の気をひこうとする行動が増えた 67%
- 遊ぶ行動が減った 57%
- 活動レベルが低下した 46%
- 睡眠の増加 35%
- 何かを怖がることが増えた 35%
- 食欲、食事量の低下 32%
- 吠え行動が増えた 30%
残された犬の行動に変化がなかったという回答は13.4%でした。
また、このような反応が見られた期間は、2ヶ月未満29.4%、2〜6ヶ月32.2%、6ヶ月以上24.9%でした。
犬たちの9割以上は1年以上一緒に暮らしていたと回答が示していますが、残された犬の行動に同居期間の長さはあまり影響していないようでした。
観察された犬の行動の変化は、犬が喪失の後の分離ストレスを感じている可能性を示しています。今まで犬が同種の仲間を喪った時の研究があまり無かったことは、犬の福祉の問題の中で見過ごされてきた部分ではないかと研究者は指摘しています。
人間以外の動物が仲間を喪った後の行動パターンを理解することは、動物の感情的なニーズを認識するのに役立ちます。しかし今回の調査からだけでは、喪失の後に犬が感じていたのが『悲しみ』であったかどうかを確認することはできません。
この調査は同じ研究チームによる大きなプロジェクトの一部だということですので、今後さらに犬の感情についての興味深い研究結果が報告されることと思います。
まとめ
イタリアでのアンケート調査から、多頭飼いの犬が同居の犬を喪った後に、その多くが分離ストレスに関連する行動を見せたという報告をご紹介しました。
科学的には犬の分離ストレスを単純に「悲しみ」と定義づけることはできないようですが、犬が同種の仲間を喪うことで強いストレスを感じることは確かです。
このような時に飼い主ができるのは、残された犬に任せることです。無理に遊ばせたり寝ているところを起こしたりせず、犬のしたいようにさせてあげます。食欲低下や睡眠の増加が病気から来ているのではないかということだけは確認しておきましょう。
犬が嫌がらずに受け入れるようなら、いつもと違う散歩コース、車で遠出なども良いかもしれません。無理強いだけは決してしないよう注意が必要です。
今後の研究で犬の感情について、さらに詳しいことが明らかになっていくのが楽しみですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1038/s41598-022-05669-y