犬の巨大食道症という病気
犬の病気に巨大食道症というものがあります。その名の通り食道が拡張して、食べ物や水を胃に送る運動が著しく低下してしまう状態です。
食べ物を胃に送ることができず吐き出してしまうので、水分や栄養が摂取できず命に関わります。また、逆流した食べ物が気道から肺に入ってしまって、誤嚥性肺炎を引き起こすこともあります。
巨大食道症は先天性(生まれつき)のものと、後天性のものがあります。後天性の場合は重症筋無力症や、アジソン病など他の疾患が原因となります。また、鉛中毒によって巨大食道症が誘発される場合もあります。
現在のところ巨大食道症の明確な治療方法はありません。少量の食事を数回に分けて与える、食事の時に直立姿勢になるよう体を固定する、テーブルで食べさせるなどの対症療法が行われています。
この度、アメリカのワシントン州立大学獣医学部の研究チームが、バイアグラとして知られている薬のジェネリック版であるシルデナフィルが、巨大食道症の治療薬となる可能性があるという研究結果を発表しました。
シルデナフィルとプラセボをそれぞれ14日間投与
この研究に参加したのは10頭の家庭犬でした。全員が巨大食道症ではあるが、それ以外には健康上の問題のない犬たちです。
バイアグラのジェネリックであるシルデナフィルは、EDの治療の他に人間や犬の肺高血圧症の治療にも使われます。また、液体シルデナフィルは下部食道括約筋を弛緩させることが分かったため、食べ物が胃に通るよう食道が開く可能性があります。
液体のシルデナフィルを犬の胃に直接送り込むことで、食道の中の食べ物の状態、吐き出しの頻度、体重、生活の質にどのような影響を与えるかを判断することがこの研究の目的です。
犬たちは2つのグループに分けられ、12時間ごとに液体シルデナフィルまたはプラセボを投与されました。投与は14日間続けられ、その後7日間は何も投与されない期間を設け、今度はシルデナフィルとプラセボのグループを切り替えて14日間の投与が行われました。
シルデナフィルはどの程度の効果があったか?
食道の中の食べ物の状態は、投与を始める前と各治療期間の1日目に嚥下造影検査によって観察されました。造影剤を入れた食べ物が食道を通過する様子をX線撮影するというものです。30分間の撮影ではシルデナフィルとプラセボの間に有意な違いは見られませんでした。
吐き出しの頻度と生活の質については、飼い主が観察して報告する役目を任されました。
飼い主は投与されている薬がシルデナフィルかプラセボかは知らされていなかったのですが、吐き出しの頻度が明らかに減ったため、シルデナフィルを投与されている期間は簡単に認識されました。
10人中9人の飼い主がシルデナフィル投与期間中の吐き出しの減少を報告しました。また、犬たちは研究の前後で平均して2パウンド(約1kg)体重の増加が見られたとのことです。
良い結果が得られなかった1頭は症状が重く、薬が胃に到達して吸収されることすら困難だったと考えられるそうです。症状が中程度の犬では劇的な効果を示しました。これらの犬たちは研究後もシルデナフィルを処方されているとのことです。
このようにシルデナフィルは、巨大食道症という難しい病気に苦しんでいる犬と飼い主さんにとって大きな希望になる可能性が示されました。研究者は今後さらに研究が続けられることで、人間の同じ病気にも効果が期待できるかもしれないと述べています。
まとめ
今まで明確な治療法がなかった犬の巨大食道症に、液体シルデナフィルが有望な効果を示したという研究結果をご紹介しました。
研究者はこの結果について、研究に参加した飼い主の努力に感謝し讃えました。近年では犬の病気の研究は、実際にその病気に罹っている犬の治療に基づいて行われています。そのような研究においては飼い主を抜きにしては語れません。
獣医学の発展において飼い主の観察が重要視されるというのは素敵なことですね。
《参考URL》
https://news.wsu.edu/press-release/2022/02/21/viagra-promising-as-treatment-for-dogs-with-often-fatal-eating-disorder/
https://doi.org/10.2460/ajvr.21.02.0030