調査研究部門を持つ動物保護団体
イギリスには大規模な動物保護団体が複数あります。ドッグズトラストもそのうちのひとつですが、この団体のユニークなところは犬の行動や社会事象についての専門の調査研究部門を持っていることです。獣医師や動物行動学者が調査研究を行い論文として発表しています。
今回ご紹介する調査結果もドッグズトラストの調査研究部門によるものです。現在犬を飼っている人たちに「その犬を飼い始めたきっかけや動機は何でしたか?」というテーマでインタビューを行い回答内容を集計分析しています。
飼育できなくなった犬たちを毎日受け入れている側の人々にとって、一般的な「犬を飼う動機」の傾向を把握しておくことは、社会全体に対してどのような教育や情報提供をするのが効果的なのかを知るためにも重要です。
犬を飼い始めたきっかけは何でしたか?
調査のためのインタビュー参加者は、ドッグズトラストの地域イベント23ヶ所で募集されました。
このイベントは、犬の食事、運動、エンリッチメントなどについての無料アドバイス、無料のマイクロチップサービス、望まれない子犬が生まれるリスクが高そうな家庭への不妊化手術補助金チケット配布などを提供するものです。
このイベントの内容だけでも、同団体が保護施設に来る犬を減らすために何に力を注いでいるかが見えますね。
インタビューの趣旨や内容について研究者が説明した後、18歳以上の希望者がその場の特設コーナーでインタビューを受け142人の回答が集められました。
インタビューでの質問項目は次のようなものでした。
- 現在または以前に飼っていた犬の犬種
- その犬をどこで入手したか
- 入手先を決める際に影響を与えた要因
- 犬を入手した理由
インタビューでは参加者が自分の言葉を使って自分の経験を自由に表現できるよう配慮されました。
インタビューは音声録音や手書きメモによって記録され、その後インタビューを行った研究者によってデジタル化されました。参加者と愛犬の名前は全て偽名に置き換えられました。
予定外に犬を迎えたきっかけと動機
集計分析の結果、犬を入手した時に「以前から犬を迎えることを計画していた」という人と「犬を迎えることを計画しておらず予定外に入手した」という人がほぼ半々だったことがわかりました。
予定外の入手には、しばしば回答者の家族や友人が絡んでいました。例えば「家族や友人が飼っていた犬を手放さないといけない事情ができた」「家族や友人からプレゼントされた」などが代表的なものです。
それらの犬を受け入れる動機となったのは「犬に対して感情的な愛着を持った」「犬を助けたいと思った」という回答が多数でした。多くの人が犬についてのリサーチを行わないまま、ためらうことなく飼うことを決めたと答えました。
予定外の犬の入手を後押しした要因には「犬の容貌」「犬の可哀相な背景」があることも分かりました。特に「この犬は救われなくてはならない」という認識は、予定外に犬を迎えた人々において、より一般的で重要だったことが分かりました。
このように予定外に犬を入手することを決めた参加者が、その動機として挙げたのは「犬との間に迅速に形成された感情的な愛着」と「犬を救わなくてはいけないという認識」でした。
研究者はこの結果を、イギリス全体での予定外の犬の入手に当てはめて結論を出すことはできないとしています。今後さらに大きな集団を対象にして、予定外の犬の入手についての調査を行う必要があるとしています。
また、予定外に犬を入手した場合の長期的な犬と飼い主の関係、インタビュー参加者の多くが口にした個人的なリホーム(家族や友人の犬を引き取った)における犬と飼い主の長期的な関係についても調査研究が必要だということです。
まとめ
動物保護団体による調査研究で、調査参加者が愛犬を予定外に入手したきっかけの多くに家族や友人が絡んでおり、入手の動機には「犬への感情的愛着」「犬を助けたい」という気持ちがあったと答えたことをご紹介しました。
予定外の犬の入手の理由も今後の研究の展望も、動物保護団体らしい色合いが感じられるように思います。このような地道な研究が犬の飼育放棄防止や保護犬のリホームの推進に役立っているということにも感慨を持ちました。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani11030605