アジリティ競技に参加している犬たちの活動についての調査
バーやトンネルなど、さまざまな障害物を飛んだり潜ったりして敏捷性を競うドッグスポーツ『アジリティ』は世界中の多くの国で人気のあるアクティビティで、競技会も数多く行われています。
皆さんの中にも愛犬がアジリティをしているという方がいるかと思います。
このように人気のあるスポーツでありながら、アジリティ競技に参加している犬のトレーニング、身体の管理、競技や普段の活動についての情報が公式にまとめられたものは非常に少ないのだそうです。
このようなアジリティ競技に関する知識や認識のギャップを埋めるため、フィンランドのヘルシンキ大学獣医学部の研究者チームが、フィンランド国内で競技会レベルのアジリティ犬のトレーニングや管理に関する調査を実施しました。
調査は競技会に参加しているレベルのアジリティ犬の飼い主を調査に招待し、希望者がオンラインで回答するアンケート形式で実施されました。こうして745頭の犬の飼い主670人からの回答が集計されました。犬の数の方が多いのは、1人で複数の犬を飼っていて回答した人がいるからです。
アンケート調査の質問票は獣医師、獣医理学療法士、統計学者、アジリティ競技の審判員、アジリティ競技ハンドラーの意見を取り入れて作成されました。
アジリティ犬たちはどれくらい運動したりケアを受けている?
回答者の犬たちの平均年齢は4.4歳(2.8〜6.1歳)平均体重は13kg(8〜18.5kg)平均体高は42cm(34〜50cm)でした。
フィンランドで競技会に出場するレベルのアジリティ犬のトレーニングなどについての回答を集計した結果は次のようなものでした。
- アジリティコースでのトレーニング 週に1〜2回
- 1週間のトレーニング時間 18分(中央値)
- 競技会への参加 月に2.1回(平均)
トレーニングにかける時間の短さを意外に感じた方も多いのではないでしょうか。
また7.1%の犬は夏季、または冬季のみアジリティ競技に参加すると答えています。そのうち「冬は不参加」は52.3%、「夏は不参加」が47.2%でした。また、約7割が1年のうちアジリティ競技を離れる時期があると答えており、離れている期間は平均4週間でした。
トレーニングとは別に犬が行なっているエクササイズについての回答は以下です。
- 競技前には常にウォームアップ運動を行なっているのは93.4%
- 競技後には常にクールダウン運動を行なっているのは86.7%
- 76.8%がコンディショニング運動を行なっている
- 1日の散歩時間は1.5時間(中央値)
ウォームアップとクールダウンはどちらも「ほぼいつも」という回答を含めると、ほとんど全員が競技前後の運動を行なっていました。
コンディショニング運動とは、鍛えたり訓練したりするためではなく、筋肉の調子や状態を整えるための運動です。競技会でのレベルが高いほど頻繁にコンディショニング運動を行なっており17.7%が「少なくとも週に2回」と回答しています。しかし、8割以上は2週に1回またはそれ以下でした。
筋肉や関節の専門家のケアを受けているかどうかは以下の通りでした。
- 26.6%の犬が3ヶ月に1度のマッサージセラピーを受けている(11%は月に1度)
- 62%の犬が理学療法士、整骨医など筋骨格の専門家のケアを受けている
競技会に参加するレベルのアジリティ犬たちの多くが、注意深く手厚いトレーニングや身体のメンテナンスを受けていることを伺わせる結果です。
アメリカでのアジリティ犬のデータと比較すると?
アジリティ競技に参加している犬の活動については、過去にアメリカで実施された調査があります。このフィンランドでの調査と比較するといくつか違う点が見られました。
フィンランドでは約9割が、アジリティコースでのトレーニングは週に1〜2回と回答しましたが、アメリカでは週に2.5回(平均)でした。また、1週間あたりのトレーニング時間もアメリカの方が長いものでした。
しかし、1日の散歩の時間はフィンランドでは1日に1.5時間だったのに対し、アメリカのアジリティ犬の約4分の3の散歩時間が週に2時間以内でした。散歩時間の違いがトレーニング時間の違いに反映されていることが推測されます。
また、フィンランドの犬の散歩は多くの場合オフリードの自由運動が含まれるため、さまざまな地形や坂道を走ることが、筋力トレーニングやコンディショニングに代わるものになっていると考察されています。
また、競技会でのレベルを基準にして比較すると、レベルの高い犬ほどトレーニングの時間が短く競技会参加の回数が多いことも分かりました。これは一定以上のレベルの犬は既にスキルを獲得しているので、コースでのトレーニングはあまり必要ではないからと考えられています。
まとめ
フィンランドでアジリティ競技に参加している犬の飼い主へのアンケート調査から、犬たちのトレーニングやメンテナンスについてのデータの一部をご紹介しました。
この調査は第一段であり、次回はアジリティ競技と犬の怪我についての調査が予定されているそうです。人間のスポーツ選手の怪我予防プログラムなどとの比較が含まれるようで、こちらも興味深いものになりそうです。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani12020212