犬のオシッコやウンチと自然環境
街中や住宅街での散歩では犬のオシッコやウンチの後片付けをきちんとしていても、山や森など自然環境の中では、「自然と分解されるだろうから」とウンチを放置したり埋めたりするという例は少なくありません。
また、自然環境保護のための規制や調査では交通や農業が対象になってきましたが、犬の排泄物については今まで見過ごされていました。都市周辺の自然保護区などでは犬を連れて散歩する人も多く、土壌への影響を調査する必要があると考えられました。
この度ベルギーのゲント大学の環境学の研究者が、自然保護区を散歩する犬の排泄物が環境に与える影響を調査し、その結果を発表しました。犬のウンチやオシッコが地域の生物多様性にどのような影響があるのか、全ての飼い主が知っておきたい内容です。
犬の排泄物に含まれる窒素とリン
この研究では植物の生物多様性に大きな影響を与える、窒素とリンに焦点を絞って調査を行いました。窒素は犬の糞便と尿の両方に含まれ、リンは糞便に含まれています。
河川や海で起こる「富栄養化」という言葉を聞いたことがないでしょうか。本来はそこに住む魚やプランクトンによって、水中の栄養成分であるリンや窒素が自然に増えて行く現象を指していたのですが、近年は農牧業や工業の排水が河川や海に流れ込むことで、リンや窒素の濃度が極端に高くなる場合に使われることが多くなっています。
この富栄養化(肥沃化)は水中だけでなく土壌においても起こります。土壌の栄養成分が本来あるものとかけ離れた割合になると、そこに生育している植物の生態に影響があります。
犬の排泄物に含まれるリンや窒素が土壌の肥沃化にどのくらい関与しているのかが、この調査のポイントです。
研究チームは、調査を行なった18ヶ月間にベルギーのゲント市近くの4つの自然保護区を訪れた犬の数を記録しました。これによって1ヘクタール辺りの犬の密度が計算されました。
犬の糞便と尿に含まれるリンと窒素の濃度についての体系的データに基づいて、犬の排泄物が土壌を肥沃化させる率を計算しました。
犬のウンチの環境への影響は予想を大きく上回っていた!
計算分析の結果、犬の排泄物は年間1ヘクタールあたり窒素約11kg、リン約5kgを付加していることが推測されました。ヨーロッパの他の地域で農業と化石燃料の燃焼によって排出される窒素の総レベルは年間1ヘクタールあたり5〜25kgです。
これらの数字と比べると、犬の排泄物による窒素11kgが無視できないレベルであることがよくわかります。
研究チームはまた、全ての飼い主が犬をリードでつないでいた場合、全ての飼い主が犬のフンを回収した場合など、さまざまなシナリオを計算しました。
自然保護区内で犬が常にオンリードだった場合、保護区の大部分の肥沃化率は低下しましたが、通路付近の限定されたエリアでは肥沃化率は大幅に上昇しました。その量は1ヘクタールあたり窒素175kg、リン73kgという驚異的な数字で、農地の法的制限を超えているものでした。
犬がオンリードで全ての飼い主が犬のフンを回収したシナリオでは、窒素は56%、リンは97%減少しました。リンの減少率が高いのはリンはほぼ糞便にのみ含まれるのに対し、窒素は糞便と尿の両方に含まれるためです。
このように犬の排泄物が土壌を本来あるべき姿を超えて肥沃化させることで、特定の植物だけが繁殖し、他の種の植物が生育できなくなる多様性の低下を招きます。植物の多様性が低下することは、それらの植物を住処としたり食物としている虫や動物の多様性も低下させます。
研究者は犬の排泄物が生態系の及ぼす悪影響を深刻に捉えており、飼い主への啓蒙教育の他、犬がオフリードで遊べる専用公園の設置などを訴えています。
まとめ
ベルギーの自然保護区で犬のウンチやオシッコに含まれる窒素やリンが土壌をどのくらい肥沃化させているかという分析調査の結果、環境や生態系に対して予想されたよりも大きい悪影響を与えている可能性についてご紹介しました。
ヨーロッパのいくつかの国では森で犬を自由に走り回らせることが許されており、日本ではしばしば羨望の的として紹介されます。しかしヨーロッパやオセアニアでは、犬や猫が自然の生態系に与える影響を深刻に捉える研究や調査が多く報告されるようになり、流れが変わりつつあります。
多くの場合、対策として犬には犬専用の自由に走り回れるエリアを設置しようと提案されており、近い将来に広大なドッグパークが増えていくと予想されます。
対策については国によって差があるところでしょうが、犬の排泄物が及ぼす影響は万国共通です。大切な愛犬を自然破壊の理由にしないためにも、飼い主の責任が大きく問われます。
《参考URL》
https://doi.org/10.1002/2688-8319.12128