犬が人の真似をする行動を研究
特に意味も目的もない他者の動作を真似することは人間の赤ちゃんではよく知られているのですが、意外なことにチンパンジーなど他の霊長類には見られないのだそうです。
しかし、最近の研究では犬が人間の意味のない行動を真似することが報告されています。
オーストリアのウィーン獣医科大学メッサー理研究所が行った犬の模倣行動の実験では、普段犬の世話をしている人の行動は真似するが、初めて会った実験者の行動を真似した犬はごくわずかだったという結果が出ています。
そこで、同じ研究者が犬と飼育者の関係性が犬の模倣行動にどのような影響を与えるかという実験を行い、その結果が報告されました。
飼い主の真似と飼い主との関係性を実験で観察
模倣行動の実験は犬が「過剰模倣」を行うかどうかに注目して設計されました。過剰模倣とは、対象となる者の行動を省略やアレンジ無しでそっくりそのまま真似する行動を指します。
実験に参加したのは58組の犬と飼い主でした。過剰模倣の実験は室内で行われ、飼い主は次のような行動をするよう指示を受けました。犬が飼い主の動作を完全に模倣できるように、飼い主は膝をついて鼻での操作を指示されました。
- 色の違う2つの丸が描かれた紙が壁に貼られており、決められた順番で鼻でタッチする
- 壁に設置された引き戸の模型を決められた順番でスライドさせて鼻で開ける
犬は飼い主の行動を実験者がリードを持った状態で見守っており、飼い主の行動が終わった時点でリードを外して、飼い主の行動を真似するかどうかが記録されました。
犬と飼い主の関係性を観察する実験は、屋外のフェンスで囲われたミニドッグランのような場所で行われました。
オフリードの犬と飼い主がフェンスの中に入り、犬がしばらく自由行動をした後に飼い主がフェンスの隅に設置されたカーテンの後ろに隠れ、再び現れた時の犬の反応を観察するというものです。
再会を喜んだり飼い主に甘えたりする行動が、関係性の強さと関連していると判断されます。
犬と飼い主の関係は模倣行動に影響していたか?
この研究は犬と飼い主の関係性の要素が、過剰模倣が起こる確率と模倣の正確さに関連することを確認する目的で行われました。
この実験では犬と飼い主の関係性と、過剰模倣の間の有意な関連は見つかりませんでした。関連が見られなかった理由のひとつには、飼い主の行動を正確に模倣した犬が58頭中3頭という少ない数しかいなかったことがあります。
しかし、この3頭は関係性の実験で飼い主との関係性の強さが、最高レベルを示していたことは注目に値すると研究者は述べています。
以前に行われた同様の研究よりも模倣行動をする犬が少なかった点について、今回の実験は季節や室温が、犬にとって前回よりも快適でなかったことなどが考察されています。
人間が行う意味のない行動を、犬がどのように解釈して真似をしたりしなかったりするのか、それを理解するためにはさらに実験と調査が必要であるとのことです。
まとめ
犬と飼い主の関係性が強いと飼い主の行動を真似する回数や精度も高くなるのか?という調査からは、両者の有意な関連が見出されませんでした。
しかし特別に飼い主との関係性が強い少数の犬たちだけが、精度の高い模倣行動をしたという実験結果は興味深く、今後さらに掘り下げた調査が期待されます。
トレーニングなどとは違う、意味や目的のない人間の行動を犬が真似するというのは、確かに強い関係性を感じさせて、犬という生き物がいっそう愛おしくなりますね。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani12030326