家庭内の犬の階層を調査する
複数の犬を飼っている家庭では、犬の間に階層が見られることがあります。ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究者が、コンパニオンドッグの間の階層関係を調査した結果を発表しました。
最初に犬の「階層」や「優位性」について確認しておきます。犬同士のランク付け、階層、優位性という類の言葉は、ドッグトレーナーや飼い主そして動物行動学者の間でも議論になりがちです。
この研究で優位性という言葉は、犬のトレーニングの古い考え方で「犬は家族のメンバーを順位付けする」とか「犬が飼い主の優位に立とうとする」というものとは違います。
人間の心理学や社会学における「優位性」は性格特性と見なされます。上記に挙げた「飼い主の優位に〜」というのは、犬に人間の心理学を当てはめてしまっている誤用です。
動物行動学での「優位性」や「階層」は性格特性を表すものではなく、単純に社会的関係の尺度として使われます。
これを前提として、家庭内に複数の犬がいる場合に階層の上下を決める要素は何であるかを、飼い主へのアンケートをもとにして調査しました。
飼い主へのアンケートで犬の性格と階層を診断
調査の方法は、SNSを通じて募集した回答者へのオンラインアンケート調査でした。参加の条件は「2頭以上の犬を飼っていること」で、1,082頭分の犬についての回答が寄せられました。
質問項目は「犬の性格特性」「犬と飼い主との関係」「犬同士の関係」の3つのカテゴリーに分けられていました。
犬の性格特性は、日常生活の中のさまざまな場面での行動についての質問に5段階の尺度で回答したものを、心理学で使われるビッグファイブ理論によって診断されました。
ビッグファイブ理論とは、性格特性は5つの因子によって分類することができるというものです。5つの因子の強弱は人によって違うため、性格や行動に違いが出ると考えられています。
人間を対象にした理論ですが、この調査では犬向けにアレンジした質問が用意されました。
犬のためのビッグファイブの5つの因子とは次のようなものです。
- 開放性 新しい物や出来事に対してのオープンマインド
- 外向性 他の犬や人間との社交性や活発さ
- 調和性 他の犬や人間へのフレンドリーさ
- 信頼性 飼い主の指示への対応などの真面目さ
- 情緒安定性 神経症傾向
それぞれの犬について「家庭内での他の犬との階層に関する行動」についての質問項目もあり、これによって優位性スコアが付けられました。
上位になる性格、下位になる性格
犬の性格特性のうちの4つの因子と家庭内での階層には、はっきりとした関連が見られました。
開放性、外向性、信頼性の高い犬は優位性スコアが高くなる傾向があり、調和性の高い犬は優位性スコアが低い傾向がありました。
つまり新しい物事にオープンで社交的、飼い主からの指示に忠実に応える犬は上位にいる傾向が強く、人や犬にフレンドリーな犬は下位にいる傾向が強いということです。
また、年齢の高い犬は優位性スコアが高い傾向がありました。しかし、高齢になると開放性や外向性が低くなる傾向が強いため、優位性スコアも低い傾向になりました。
飼い主に家庭内の犬のうち誰が上位であるかの質問への回答と、計算された優位性スコアを比較したところ、飼い主が犬の間の階層をかなり正確に判断できることも分かりました。
性格特性と犬の階層の間に関連があることが示されましたが、どのような因果関係があるのかを知るためにはさらに研究が必要だということです。
まとめ
飼い主へのアンケート調査から、家庭内の複数の犬のうち上位になるものは開放性、外向性、信頼性の性格特性が強い傾向があり、下位の犬は調和性の高い傾向が強いという報告をご紹介しました。
家庭内の犬は野生動物と違って、生きるために必要なリソースは全て飼い主から与えられるため、ここでいう順位とは野生動物の群れとは違うものです。
しかし家庭内での犬の順位について詳しいことが分かれば、犬とのつき合い方の大きな助けになりそうです。今後の研究にさらに期待したいと思います。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2022.105544