健康に問題の多い犬種の繁殖を禁止する判決
2022年2月、ノルウェーにおいてイングリッシュブルドッグとキャパリアキングチャールズスパニエルの繁殖が事実上禁止されたというニュースが報道され、世界中の多くの国に衝撃を与えました。
イングリッシュブルドッグは極端に短いマズルから来る呼吸障害を筆頭に、目、耳、歯の疾患、背骨の奇形、分娩時の障害などの健康問題を抱えています。
キャバリアキングチャールズスパニエルは遺伝的な要素の大きい心臓疾患、キアリ様奇形と呼ばれる後頭骨形成不全による、神経症状や頭痛の問題がよく知られています。
ブルドッグのマズルやキャバリアのキアリ様奇形は「犬種スタンダード」に合う犬を作り出すことでもたらされたものです。
2犬種の繁殖禁止の報道はノルウェーのオスロ地方裁判所が、これらの犬の繁殖は同国の動物福祉法に違反していると判決を下したことから来ています。
このような判決が下された経緯、判決の内容、今後の見通しなどについて報道された内容からご紹介します。
動物保護協会がケネルクラブやブリーダーに対して訴訟
この判決が下された訴訟は、2018年にノルウェー動物保護協会がノルウェーケネルクラブ、ノルウェーキャバリアクラブ、ノルウェーブルドッグクラブ、キャバリアとイングリッシュブルのブリーダー6人に対して「動物福祉法に違反している」として起こしたものです。
ノルウェーの動物福祉法には動物の繁殖について以下のように定められており、ノルウェー動物保護協会がケネルクラブやブリーダーが違反していると指摘したのはこれらのことです。
- 繁殖は身体機能と健康の良好な特性を促進するものでなくてはならない
- 動物の身体的および精神的機能に悪影響を与える方法で遺伝子を変化させる、またはそのような遺伝子を伝える育種をしてはいけない
- 自然な行動をするための動物の能力を低下させてはならない
2018年の告訴を受けて、ノルウェー議会は動物福祉法の繁殖に関する条項の文言を修正し、ケネルクラブやブリーダーは責任ある動物の繁殖を行なっているとして、ブリーダー側の立場を取って来ました。
しかし保護協会と弁護団側は、健康障害に苦しむ犬たちの数多くの実例、飼い主の証言の数々を証拠として提出し、現在ノルウェーに住んでいるこれらの犬種のどれもが「健康」とは言えないと主張しました。
そしてこの訴訟がこの度オスロ地方裁判所によって「短頭種の犬を繁殖する慣行は残酷であり、動物に人為的な健康障害をもたらすため、動物福祉法に違反する」と裁定されました。
しかし、当然ながらケネルクラブやブリーダークラブはこの判決に反発を示しています。ノルウェーケネルクラブ代表は「現在も犬の健康については十分な配慮と責任を持って繁殖を行なっているし、この判決が本当に犬の福祉の向上につながるかどうかは疑問だ」と取材に答えています。
今後の犬種の行方と心配されること
このようにブリーダーやケネルクラブVS動物福祉団体や獣医療関係者という対立構造や断絶は、今回の判決によってより顕著になってしまったようです。
動物保護協会やその支持者たちも法廷での判決が、犬の健康問題を解決するとは思っていないようです。
しかし、獣医療や遺伝学などの専門家が長年に渡って警告してきたにも関わらず、犬種や繁殖の業界が責任を負うことなく、実質的な変更を行わずに来たことがこのような事態を招いたとも言えます。今回は2犬種でしたが、今後また他の犬種で同様の訴訟が起きることも十分に考えられます。
ケネルクラブ側も動物保護協会側も多くの関係者が心配しているのは、ノルウェー国内で繁殖が禁止されても、近隣諸国から犬を購入する人が増えるのではないかということです。
ノルウェーよりも規制の緩い国から輸入された犬は、さらに深刻な健康上の問題を抱えている可能性があります。
しかし今回の事実上の繁殖の禁止は、これらの犬種を根絶しようというものではありません。判決では科学的根拠に基づいた犬種改良に取り組むシリアスブリーダーが行う繁殖を禁止するものではないとしています。動物保護協会もこのようなシリアスブリーダーや獣医師、科学者との協力に積極的に取り組むことを希望しています。
まとめ
ノルウェーのオスロ地方裁判所において、ケネルクラブや犬種クラブ、ブリーダーに対する訴訟でイングリッシュブルドッグとキャバリアキングチャールズスパニエルの繁殖は動物福祉法に違反しているという、事実上の繁殖禁止の判決が下されたことをご紹介しました。
犬の容姿の極端な特徴が、健康上の問題を引き起こしていることは20年以上に渡って問題視されているのに、一向に改善の兆しが見られない理由の一つは、その特徴を「かわいい」ともてはやし購入する人が後を絶たないからです。
犬であれ猫であれ「かわいい!」と飛びつく前に、品種のことをよく勉強すると健康上の問題のことは必ず目に入ります。病気にならない動物はいませんが、呼吸、出産、睡眠などの自然な行動に支障を来たす身体的特徴はあってはならないと多くの人が知ってほしいと思います。