チェリーアイについての大規模調査
犬のチェリーアイと呼ばれる病気があります。目頭にある第三眼瞼(だいさんがんけん=瞬膜とも呼ばれます)が飛び出してしまうものです。
第三眼瞼は普段は下まぶたの内側に隠れており、眼球を保護する大切な役目を担っています。この第三眼瞼が飛び出して赤く腫れ上がってしまった状態がサクランボのように見えるためチェリーアイと呼ばれますが、正式名称は第三眼瞼腺脱出と言います。
治療には通常は手術が必要となるので、犬にとっても飼い主にとっても負担の大きい病気のひとつです。治療せずに放置した場合、他の慢性的な目の障害を引き起こし生涯にわたって投薬が必要になったり、視力を脅かす可能性もあります。
このチェリーアイのリスク要因について、イギリスの王立獣医科大学が大規模な調査を実施し、その結果を発表しました。
チェリーアイのリスクが高い犬種
王立獣医科大学ではイギリス国内の一般動物病院と匿名化された、診療データを共有するプログラムを運営しています。
研究チームはこのプログラムから、1年の間にイギリス国内で診察を受けた犬90万匹以上の記録を追跡し、0.2%にあたる1,802匹がチェリーアイと診断されていたことを確認しました。
診断された犬のうち、17犬種は雑種犬と比較した場合にチェリーアイのリスクが明らかに高いことが示されました。
最もリスクが高かったのは次の犬種です。数字は雑種犬と比較した時の割合です。
- ナポリタンマスティフ 34.3倍
- イングリッシュブルドッグ 24.1倍
- ラサアプソ 12.4倍
- アメリカンコッカースパニエル 11.6倍
- パグル(パグ×ビーグル) 9.5倍
- グレートデーン 6.2倍
- セントバーナード 5.3倍
- ジャグ(ジャックラッセルテリア×パグ) 5.2倍
注目すべきはパグ×ビーグルのミックス、ジャックラッセルテリア×パグのミックスなど、短頭種のミックス犬が含まれていたことです。
反対に雑種犬と比較した場合のリスクが最も低かったのは、ジャーマンシェパード、ウエストハイランドホワイトテリア、イングリッシュスプリンガースパニエル、ラブラドールレトリーバーでした。
その他のリスク要因とそこから分かること
リサーチの結果、犬種の他にリスク要因として次のようなことがわかりました。
- チェリーアイの最初の診断時の平均年齢は0.6歳
- 1歳未満の犬は、2〜4歳の犬と比較してチェリーアイのリスクが10.8倍になる
- 短頭種の犬は頭蓋骨の長さが中程度の犬と比較してチェリーアイのリスクが6.9倍になる
- 純血種の犬は雑種と比較してチェリーアイのリスクが1.4倍になる
高リスク要因の、診断時の若い年齢、犬種、頭蓋骨の形状などは、チェリーアイの発症には遺伝的な要因が関与していることを示しています。
つまり繁殖方法の改善で予防できる可能性が高いということです。
研究者はこれらの犬種を作り出したのは人間なのだから、健康状態の悪さが明らかになった場合には、繁殖の戦略を改善し続ける責任があると述べています。
また、繁殖に携わる人々だけでなく犬を迎える一般の飼い主の側にも、このようなリサーチ結果を参考にして犬を買う前に立ち止まって考えてみることも勧めています。
まとめ
犬のチェリーアイのリスク要因について、イギリスで実施された大規模なリサーチの結果をご紹介しました。
王立獣医科大学は短頭種の犬の健康問題を継続してリサーチしており、現状に警鐘を鳴らし続けています。今回もまた短頭種の犬の疾患リスクが高いことが明らかになり、犬の健康を損なわない適切な繁殖への改善を訴えています。
犬や猫の特定の形状がさまざまな健康上の問題を引き起こすことを一般の人にも周知することは、病気に苦しむ動物を減らすためにも重要です。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0260538
https://www.rvc.ac.uk/vetcompass/news/new-research-unveils-the-extent-of-painful-eye-condition-in-dogs-and-the-breeds-at-most-risk