犬の身体のサイズを決める遺伝子の歴史
小さなチワワから子馬ほどもあるグレートデーンまで、犬は1つの種の中で最もサイズのバラエティが豊富な哺乳類です。
これら様々な犬種の大多数は、過去200年ほどの間に選択育種されて固定されたものですが、犬の身体の小ささに対応する遺伝子は、今まで考えられていたよりも遥か昔の種に存在していたことが明らかになりました。
アメリカの国立衛生研究所の研究者は、5万3千年以上前のオオカミが持っていた成長ホルモン調節遺伝子の変異を特定したことを発表しました。
この変異体は現代の犬の身体の大きさを調節するもので、家畜化以前の古代オオカミが遺伝子変異体を持っていたのは興味深いことです。
古代オオカミのDNAから発見されたもの
研究チームは331頭の犬と、133頭の野生のイヌ科動物から採取した血液サンプルからDNAを抽出しました。また、飼い犬の去勢手術の際に取り除かれた42頭の精巣からRNAが抽出されました。
犬の身体のサイズに相関する成長ホルモン調節遺伝子はIGF1遺伝子というもので、研究チームは200以上の犬種についてこの遺伝子の変異を発見しました。この変異体は犬の身体のサイズを小さくすることに対応しています。
IGF1の変異が最初に現れた時期を確認するため、研究チームはオックスフォード大学およびルートヴィヒ・マクシミリアン大学の進化生物学者の協力を得て、古代オオカミの歯または骨からDNAを抽出しました。
その結果、5万3千年以上前のシベリアオオカミがこの遺伝子変異を持っていたことが判りました。
小さい身体のサイズの素因となるIGF1遺伝子変異は、コヨーテ、ジャッカル、リカオンなどの小型のイヌ科動物にも発見されました。
犬のサイズ研究の今後の展望
古代オオカミはイエイヌと現代のオオカミへと分化していったのですが、小さいサイズの因子はイエイヌへと引き継がれ、現代のオオカミでは身体のサイズの調節因子はほぼ消失したことがこの研究の分析によって示されました。
研究者は古代オオカミが身体のサイズを小さくする遺伝子変異を持っていたことについて「自然がこの道具を必要とするまでの何万年もの間、ポケットに隠し持っていたようです」と喩えています。
同研究チームは、今後さらに犬の身体の大きさを調節する遺伝子の研究を続ける予定だということです。
人間では身体の大きさを調節する既知の遺伝子が数百種類あるのに対して、イヌ科動物では25個しかないそうです。これらのことも含めて、犬のサイズの全体像が明らかになっていくかもしれません。
まとめ
犬の身体の小ささを作り出す成長ホルモン調節遺伝子の変異が、家畜化の遥か以前である5万3千年以上前のオオカミにも存在していたという研究結果をご紹介しました。
犬の祖先はオオカミと言われても、愛犬のチワワやヨーキーにオオカミの面影は見えないなあと考えたことのある飼い主さんは少なくないと思います。しかし古代オオカミの遺伝子のうち、よりによって身体を小さくする因子が引き継がれていたというのは驚きです。
今後さらに犬の身体のサイズのバラエティについての新しい発見が報告されるのを楽しみに待ちたいと思います。
《参考URL》
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(21)01723-1