保護施設の犬には問題行動があるという見方を検証した研究結果

保護施設の犬には問題行動があるという見方を検証した研究結果

動物保護施設に収容されている犬は「行動上の問題のせいで連れて来られたのでは?」という社会通念は根強く残っています。そのような社会の見方に一石を投じる研究結果が発表されました。

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保護施設の犬への世間の目は偏見なのだろうか?

保護施設の犬舎の中の犬たち

アニマルシェルターなどの動物保護施設(日本で言えば保健所や愛護センター)にいる犬について「何か行動上の問題があったために飼い主の手に余り施設に連れて来られた」という社会通念は、なかなか無くなることがありません。

保護犬と接した経験のある人にとっては、決して一概に言えることではないと感じることですが、個人の周囲の感覚だけでは根拠が乏しいのも事実です。

この度、アメリカのタフツ大学と国立ケーナインリサーチ協議会の研究者が、家庭での犬の問題行動とその後の施設引き渡しとの間に因果関係があるかどうか、過去に発表された論文や関連文献を調べ、その結果を発表しました。

飼育放棄と問題行動についての文献を検証

靴と紙を散らかした子犬

この研究者チームは以前に保護施設にいる犬の行動や性質を査定評価するテストについて、その信頼性や妥当性を問う研究を発表しています。

ここでご紹介する研究は、以前の研究をフォローするものとして「犬が保護施設に引き渡された理由は、本当に問題行動のせいだったのか?」という点を掘り下げています。

研究者は飼い主が犬を手放した理由を研究した12の論文(1975年〜2020年)と、いったん譲渡された犬が再び施設に返還された理由を研究した6つの論文(2000年〜2020年)を検証しました。

これら18の論文の中で、「保護施設に引き渡された犬の問題行動」と「家庭で飼われている犬の問題行動」を比較していたのは2件のみでした。

例えば「犬が家具などを繰り返し噛むことは飼育放棄のリスク因子である」という場合、家庭で飼われている犬の一般的な集団と比較して、放棄された犬の間で「家具を噛む」という行動がより一般的であることが示される場合にのみ「家具を噛む=放棄のリスク因子」と言えます。

上記のように飼育放棄された犬と、家庭で飼われている犬を比較した研究が非常に少なかったため、家庭で飼われている犬の行動についての14の論文(1992年〜2021年)の検証が行われました。

その結果、半数以上の飼い主が愛犬の問題行動を報告していたことが分かりました。

しかし一方で、同じ飼い主が愛犬に対する高い満足度を感じているのも珍しいことではなく「犬が愛され大切にされることと、その犬に飼い主にとって望ましくない行動や習慣があることは相反するものではない。

また、一般的に保護施設にいる犬は問題行動のために手放されたという説を裏付けるデータはない。」と結論づけました。

保護施設で犬の行動や性質をテストする必要は?

保護犬の世話をする女性

アメリカの動物保護施設では、収容された犬の行動や性質を査定するためのテストを行うことが一般的です。研究者はこのテストについても「必要がない」と述べています。

犬が保護施設に連れて来られた理由が元飼い主からの「問題行動があった」という報告だけに基づいている場合、信憑性が低い上に保護施設で働く人(=テストを行う人)にとっても偏見が生まれやすくなります。

さらに家庭にいる時は全く問題がなかった犬でも、施設に来たことで環境が激変し不安やストレスを感じてテストの結果に大きく影響があるのは珍しいことではありません。

そのような状態で良くない評価を下され、新しい家庭に行くチャンスが低くなったり、最悪の場合殺処分になってしまう事もあり得るのは大きな問題です。また信頼性の低いテストのために、保護施設職員の時間やリソースを使うのも無駄なことです。

保護施設でのテストは、アメリカ動物虐待防止協会によって考案されたものが一般的です。

しかし既に同協会自身が、テストの中には科学的な根拠の乏しいものもあること、わざわざテストの場を設けるよりも、日常の観察と犬と接している広範囲の人々への聞き取りなどで犬の行動や性質を評価することがより重要で正確であると声明を出しています。

まとめ

保護施設で遊んでいる子犬たち

保護施設に引き渡された犬と問題行動に関する32件の過去の研究を検証した結果「保護施設にいる犬は問題行動のために飼育放棄されたというのが一般的とは言えない」という結論が出されたことをご紹介しました。

もちろん中には、飼い主がどうしても対処しきれなかった行動上の問題のために保護施設に連れて来られる犬もいます。研究者もこの点は認めつつ、それを一般化するだけの根拠はないとしています。

犬が保護施設に引き渡される理由を正しく調べることは、飼育放棄を減らすためにどのような対策が必要なのかを知るためにとても大切です。そのための研究がこのように行われていることは心強く感じます。

《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.jveb.2021.11.007
https://nationalcanineresearchcouncil.com/research_library/saving-normal-a-new-look-at-behavioral-incompatibilities-and-dog-relinquishment-to-shelters/
https://www.aspca.org/about-us/aspca-policy-and-position-statements/position-statement-shelter-dog-behavior-assessments

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