犬の望ましくない行動と投薬治療の調査
犬が人間にとって望ましくない行動をするのは珍しいことではありません。しかしそれらの行動も度が過ぎると、犬と人間の福祉にとって深刻な問題になる場合があります。
イギリスの王立獣医科大学では、全国の一般動物病院の診療データを匿名で共有し分析するプログラムを運営しています。そのプログラムを使って、犬の望ましくない行動に対してどのくらいの割合で投薬治療が行われたのかが、その詳しい内容とともに調査分析されました。
犬の望ましくない行動は「人間にとって」という前提が付く場合も多いので、一概に「問題行動」と呼ぶことは正確ではないのですが、これ以降は便宜上「問題行動」という表現を使います。
臨床データから治療内容を分析
調査に使われたデータは2013年にプログラムに登録している一般動物病院で診察を受けた103,597匹の犬の臨床記録です。
このうちの404匹の犬が問題行動を治療するために少なくとも1種類の薬を投与されていました。有病率で言えば0.4%に当たります。投薬治療が行われた問題行動の上位3つは、不安行動や認知障害から来る行動の変化、神経症的な攻撃性でした。
問題行動について投薬治療が行われるリスクについて犬種別に分析すると、雑種犬を1とした場合に割合が高かったのは、トイプードル 2.75倍、チベタンテリア2.68倍、シーズー 1.95倍でした。
また、年齢が上がると投薬治療の割合も高くなりました。12歳以上の犬は3歳未満の犬と比較すると3.1倍の割合で問題行動に対する投薬を受けていました。オス犬はメス犬よりも投薬治療の割合が高く、未去勢か去勢済みかでは有意な違いは見られませんでした。
投与された薬で最も多かったのはマレイン酸アセプロマジン(32.1%)でした。これは鎮静作用をもたらし環境刺激に対する反応性を低下させるものです。次に多かったのは抗不安薬のジアゼパム(20.6%)でした。3番目はプロペントフィリン(12.9%)でした。これは認知障害の治療に使われる薬です。
薬の種類については、その後の研究でより効果の高いものが使われるようになっていることもあり、最近のデータを使った場合には違う結果が予想されると研究者は述べています。
分析結果から考えられることと今後の課題
前述に示したように、問題行動に対して投薬が行われている割合が0.4%というのは非常に低い数字です。イギリスでの別の調査では、問題行動を示す犬は全体の約34%という報告もあります。投薬治療の割合と比較して考察すると、投薬が必要なのに見過ごされている犬が多い可能性があります。
犬の問題行動のうち上位を占める不安行動や攻撃性は、犬自身が不安や恐怖を感じていることから来る場合が多く、抗不安薬の投与が効果を示し犬の生活の質を改善することが期待されます。
問題行動に対する行動療法も投薬と併用することがより早く高い効果が出るという報告もあります。
この研究データでは、問題行動に対して行動療法の専門家を紹介した獣医師はわずか2.2%でした。問題行動の中でも攻撃性は安楽死処分にもつながりやすく、問題行動への対処が犬の福祉を大きく左右します。
研究者はプライマリーケア獣医療における問題行動の予防と管理について獣医師の知識を強化し、必要に応じて専門家への紹介を奨励することを強調しています。
まとめ
イギリスにおいて、プライマリーケアの一般動物病院で犬の問題行動に対する投薬治療が行われている率が0.4%と非常に低く、必要な治療が見過ごされている可能性が指摘されたことをご紹介しました。
向精神薬などに拒否反応を示す飼い主さんも少なくありませんが、一時的に不安や恐怖を和らげて日常生活を送りやすくすることで、犬と飼い主さん両方の生活の質が改善されることもあります。
思い悩んで犬を手放したり体罰を与えたりする前に、いろいろな選択肢があると知っておくことが大切です。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0261139