動物病院での犬のストレスを調査する
動物病院で診察や検査を受けることは、ほとんどの犬や猫にとって大きなストレスです。しかし、過去の研究では調査対象が受診前後のストレスホルモン値の変化などに限られており、受診中にストレスの測定値がどのように変化していくのかはよく分かっていません。
この度、イギリスのウォルサム・ペットケア科学研究所の研究チームによって、犬が病院で診察を受けている時のストレス値の変化とストレスを軽減するために音楽を流すことが効果があるかという調査が行われ、その結果が発表されました。
犬用に特別に作られた音楽とストレス測定
調査のための実験にはさまざまな犬種の38頭の犬が参加しました。犬たちは家庭犬ではなく研究所で飼育されており、犬種のニーズに合わせたトレーニングや社会化プログラムを受けています。
実験が行われたのは研究所内にあるクリニックで、一般の動物病院と同じように待機エリア、診察室、手術室、検査施設があり温度が適切に管理されています。
犬たちは2週間の間隔をおいて各2回の模擬診察を受けました。1回は待機エリアと診察室に音楽が流されており、もう1回は音楽なしでの受診でした。
音楽は実験のために作曲されたクラシック音楽で、各犬種の安静時の心拍のテンポに一致するように設計されたものです。
犬たちは毎日同じハンドラーによって同じ時刻にクリニックのエリアを歩き、この時に唾液を採取して比較のためのベースラインとなるホルモン値が測定されました。
実験のための模擬診察では犬たちは待機エリアに置かれ、15分後にホルモン値測定のための唾液が採取されました。その後、犬たちは診察室に連れて行かれ、獣医役の実験者によって通常の病院での検査と同じように触診を受けました。
この際に心拍数、呼吸数、体温の測定、犬のストレス行動の観察が行われました。一連の模擬診察の直後、再度唾液が採取されました。
音楽の効果と今後の課題
模擬診察に当たって、待機エリアと診察室での犬のストレスレベルはどのようなものだったのでしょうか。
犬の行動の観察からは、待機エリアではリラックス〜不安の傾向が見られ、診察室では不安、興奮、恐怖の傾向が見られました。つまり行動面では犬のストレスレベルは上昇していったことが分かります。
ストレスレベルを示す唾液中のホルモン値(コルチゾールとIgA)はベースライン〜待機エリア〜診察直後の順で有意に上昇を続けました。
音楽が流れていた時となかった時では、実証されるほどの効果は見られませんでした。研究者は「病院での受診は音楽のリラックス効果の実験にはストレスが大き過ぎた」として、音楽についてはさらに研究が必要だと述べています。
しかし病院での待機や受診が、犬にとって不安や恐怖といったストレスが高まっていく経過が分かったことで、動物病院の環境の整備、犬の周りの人間(獣医師、スタッフ、飼い主)の理解を深めるための手がかりになると考えられます。
まとめ
動物病院での受診シミュレーション実験において、待機から診察にかけて犬のストレスレベルは上昇を続け、特別に設計された音楽であっても犬たちのストレス軽減の効果はなかったという結果をご紹介しました。
過去の研究では、自宅など慣れ親しんだ環境ではリズムの激しくない穏やかな音楽が犬をリラックスさせることが分かっているので音楽に全く効果がないわけではありません。
強いストレス下では音楽が効果を示さなかったのは残念なことですが、今後さらに研究が進んで病院なので動物が快適に過ごせる方法が開発されることが待たれます。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani12020187