犬の頭の形は性格の推測に影響するか?
近年ブルドッグやパグなど短頭種の犬の人気が高くなっており、同時にその健康上の問題や、疾患のため保護施設に連れて来られる同犬種の増加が問題視されています。
イギリスでは獣医療関係者や動物保護団体が短頭種の健康問題の解決や、教育啓蒙活動への取り組みに力を注いでいます。
その一環とも言えるのですが、従来とは違った方向からの研究調査の結果がイギリスのエディンバラ大学と王立獣医科大学、オーストラリアのニューイングランド大学の研究者から報告されました。
ご存知の通り、短頭種の犬は頭部の形状がマズルの長い犬種とは大きく異なります。この頭部の形状が「この犬はハッピーな感じだ」とか「フレンドリーだ」という判断材料になっているとしたら、家庭に迎えられた後の犬と飼い主の生活に影響を与える可能性があります。
この研究では、犬の頭部の形状は人間が犬の性格や感情を推測する際に影響するかどうかを調査しました。
犬の顔の形と判断についての調査はこのように行われた
調査はオンラインアンケートの形で実施されました。回答者はSNSや動物保護団体のニュースレターを通じて募集され、最終的に2451人の回答が寄せられました。
犬の顔の形は頭蓋骨を正面から見た時の幅が頭蓋骨の奥行きの長さに対して、どのような比率になっているかで数値化されました。数値化の準備のため、ドッグショーに出場した80犬種のグループから少なくとも各6頭の頭部の幅と奥行きを測定し、平均数値を算出しました。
頭蓋骨の幅が長さに対して36.85〜59.52%を「長頭犬種」59.53〜80.59%を「中頭犬種」80.60〜101.59%を「短頭犬種」と分類しました。
アンケート調査用の画像は、イギリスのレスキュー団体が里親募集用に使っている画像が使用されました。犬の画像は全部で9頭分で、上記の頭蓋骨の幅と長さの比率による分類で長〜短それぞれ3頭ずつが選ばれました。
選ばれた犬種は次のとおりです。
- 長頭 グレイハウンド2頭 ボーダーコリー1頭
- 中頭 スタッフォードシャーブルテリア2頭 ジャックラッセルテリア1頭
- 短頭 ブリティッシュブルドッグ2頭 フレンチブルドッグ1頭
犬は全員が白っぽい色と黒っぽい色のコントラストの毛色で、立ち耳または半立ち耳、目線がカメラの方を向いており、口を開けて笑顔のような表情で歯と舌が見えていて、首から上のみの画像です。
条件を同じにするため、画像は無背景で、全てモノクロ表示、同じサイズに調整されています。
犬の画像はブリティッシュブルドッグ、スタッフォードシャーブルテリア、グレイハウンド、ジャックラッセルテリア、ブリティッシュブルドッグ、グレイハウンド、スタッフォードシャーブルテリア、ボーダーコリー、フレンチブルドッグの順で回答者に提示されました。
回答者はそれぞれの犬の画像に対して喜び、愛情、恐怖、悲しみなどの感情を提示され、それについて「強く同意する、同意する、どちらとも言えない、同意しない、強く反対する」の5段階で犬の顔に現れている感情を評価しました。
また、回答者は上記の他に性別や年齢など基本的な質問事項と犬を飼っているかどうか、飼っている場合は犬種、犬への愛着の度合いや訓練性、飼い主自身の性格についての質問もありました。
回答の集計結果と今後の研究
回答を集計分析した結果は予想とは少し違うものでした。回答者が最も多く、また強い度合いで「喜び」や「愛情」といったポジティブな性格や感情を結びつけたのは、中頭の犬種についてでした。
また「恐怖」や「悲しみ」といったネガティブな性格や感情に最も多く当てはめられたのは長頭の犬種でした。回答者の多くは短頭の犬種についてはあまり感情を見出していなかった点は予想とは違っていた点でした。
口を横に開いた笑顔のような表情は、中くらいのマズルの長さの犬では人間が考える笑顔に最も近く、マズルが長い犬と短い犬では人間が考える笑顔のイメージと離れるせいかもしれません。
犬を飼っている人は、画像で見た犬たちの性格や感情を推測するのとは別の方法で、愛犬の感情を推測するという点も明らかになりました。一緒に暮らしている犬は声や行動など多くの手がかりがあるので当然と言えるでしょう。
当初の予想とは少し違っていたとは言え、特定の顔の形の犬(この場合は中頭)が多くの人によく似た印象を与えているという点は予想に一致していました。これは今後さらに研究を進める価値があると研究者は考えています。
犬の骨格や顔の形状に左右されずに犬の感情を推測することはとても重要ですが、この調査結果は人々の推測が顔の形状に左右されていたことを示しています。犬の感情を誤って読み取ることは、体罰など嫌悪刺激を使う訓練や事故につながる可能性があります。
また、飼い主が犬の感情を正しく読み取るのに役立つ教材の開発は、人間の安全と犬の福祉の両方に役立ちます。研究者はこれらのことを今後の課題としています。
まとめ
犬の顔の画像から性格や感情を推測する時、多くの人は中ぐらいのマズルの長さの犬に対して肯定的な感情を当てはめたという調査結果をご紹介しました。
短頭種の犬に肯定的な感情を当てはめる人が多いのが、昨今の短頭種人気の原因のひとつではないか?という仮説がこの研究の発端のひとつでもあったのですが、画像だけで見る限りはそうではなかったようです。
犬の感情を推測するには人間の顔の表情を当てはめるのではなく、犬特有の表現を知る必要があります。この調査では、その点について啓蒙や教育が必要なことが改めて認識されたと言えます。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani12010049