犬の強迫性障害「CCD」
心に浮かんだ不安(強迫観念)が頭から離れず、不安を払拭するために同じ行動を繰り返してしまう(強迫行動)そのために日常生活に支障が出てしまう状態を強迫性障害と言います。
具体的な行動は、過剰な手洗い、身の回りの物や行動を数えずにいられない、過度のまばたき、過度の確認(戸締まり、元栓など)などがあります。
これらはもちろん人間の症状ですが、犬にも強迫性障害と共通する状態があります。例えば、内科的または外科的な異常は何もないのに足を舐め続ける、自分の尻尾を追いかけてグルグル回り続ける常同行動などがそれに当たります。
人間の強迫性障害はObsessive Compulsive Disorderの頭文字を取ってOCDと呼ばれ、犬の場合はCanine Compulsive Disorderの頭文字からCCDと呼ばれます。
CCDの研究者が発見した重症化の要因その1
アメリカのタフツ大学の獣医動物行動学者ドッドマン博士と神経内科医ギンズ博士は、20年の長きにわたって犬の強迫性障害について研究を続けています。犬と人間の神経医学には共通点が多く、CCDの犬だけでなくOCDに苦しんでいる人々の治療にも役立つと考えているからです。
現在OCDの確実な治療法は無く、認知行動療法や投薬も約半数の人には効果が見られないと言います。
両博士はCCDを重症化させる要因を特定するため、94頭のドーベルマンのゲノムワイド関連解析を行いました。犬たちは皆CCDの症状がありますが、軽度〜中度の症状のグループ70頭と重度のグループ24頭の解析結果が比較分析されました。
その結果、CCDの重症化に関連すると思われる4つの遺伝子(CDH2遺伝子と3つのセロトニン作動性経路に関連する遺伝子)が特定されました。神経伝達物質の1つであるセロトニンは抗OCD薬が標的とするものです。
その後、中国の研究者がベルジャンマリノアのCCDについてCDH2遺伝子の関与を確認しており、南アフリカの研究者は人間のOCDがCDH2遺伝子に関連していることを発見しています。
このようにCCDの重症化には、遺伝的な要因が関連することが明らかになっています。
遺伝子だけではないCCD重症化の要因その2
しかし、タフツ大学の両博士はCCDの重症化の要因は遺伝的なものだけではないと述べ、強迫的な常同行動は犬だけでなく他の動物にも見られます。
動物園のケージの中をひたすらウロウロ動き回る虎やライオン、頭をフラフラと揺らし続ける象やキリンを見たことがある人も多いかと思います。あれらは動物の強迫性障害による行動です。
動物園の動物に見られるような常同行動は野生動物には現れません。犬の場合も狭いケージで長時間飼育されていたり、散歩にも行かないような状態では常同行動が出る確率が高くなります。
このように動物が本来あるべき姿ではない状態に長期間置かれていると、不安やストレスが脳の機能にまで悪影響を及ぼします。CCDそして人間も含めた他の動物の強迫性障害を重症化させる要因のひとつは、慢性的な強いストレスだと研究者は述べています。
まとめ
20年以上に渡って犬の強迫性障害をリサーチしている研究者の報告から、強迫性障害重症かの要因は遺伝的なものとストレスの両方があることをご紹介しました。
この研究によってCCDとOCD両方の有効な治療法が発見されることが期待されます。私たち一般の飼い主も「愛犬は犬が本来あるべき状態からかけ離れていないか?」ということは常に意識しておきたい点です。
《参考URL》
https://www.researchgate.net/publication/298082395_Genomic_risk_for_severe_canine_compulsive_disorder_a_dog_model_of_human_OCD
https://doi.org/10.1016/j.scib.2020.09.021
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31371720/
https://www.discovermagazine.com/health/dogs-can-develop-ocd-too