イヌアレルギー治療研究の大きな一歩
動物由来のアレルギーには様々な種類がありますが、中でも犬や猫に対するアレルギーは一般的で、その数は近年増加していると言われています。
犬が好きで飼いたいと思っているけれど、アレルギーがあるので諦めているという人も少なくありません。そんな方に嬉しい未来となりそうな研究の結果が報告されました。
大阪府立大学の生命環境科学研究科では、イヌ/ネコアレルギーの治療方法の開発研究を行なっています。そしてこの度、同研究チームは人間の免疫反応を引き起こす犬のアレルゲンの分子候補を特定したと発表しました。これはイヌアレルギーのためのワクチンを開発する最初のステップとなります。
免疫機構の働きとアレルギー
犬がそばに来てもアレルギー反応が起きないという嬉しい状態を作り出すワクチン研究とはどのようなものなのしょうか。その前に、まずアレルギーが起きるメカニズムを簡単にご説明します。
体の免疫機構は、外部から侵入または体内で生まれた異物を「抗原」として認識し、体を守るために抗原に対して何らかの反応を示します。これを免疫応答と言います。
免疫応答のひとつとして、抗原を認識した免疫機構はこれを排除するための「抗体」を作り出します。抗体は他のタンパク質や免疫細胞と協力して抗原をやっつけていきます。
この抗体のひとつにIge(アイジーイー)抗体というものがあります。Ige抗体の量の多い少ないは個人差があり、Ige抗体がどの抗原と特異的に結びつくのかも人によって違います。
イヌアレルギーがある人の場合、体内にアレルゲン(犬のフケや唾液など)が入ってくるとアレルゲンの特定のアミノ酸とイヌアレルゲンに特異的なIge抗体が結合して、ヒスタミンなどの産生を促すことでアレルギー反応(かゆみや鼻水など)を引き起こします。
Ige抗体はアレルゲンの特定アミノ酸領域を特異的に認識して結合します。このアミノ酸領域を「エピトープ」と呼びます。近年、エピトープに焦点を合わせたワクチンの開発研究に多大な努力が払われています。
イヌアレルギーを起こすタンパク質の構造が明らかに
イヌアレルギーにおける主要なアレルゲンはCan f 1と呼ばれるタンパク質です。研究チームは世界で初めて、Can f 1タンパク質全体の構造をX線結晶構造解析という方法を使って明らかにしました。
アレルゲンCan f 1に対するIge抗体のエピトープを特定するためには、まずCan f 1の構造を知ることが第一です。
また研究チームは、Can f 1の構造を用いてIge抗体が結合するエピトープを予測し、その予測した部位にアミノ酸変異を導入することによってIge抗体との結合能力を低下させたCan f 1を作ることに成功しました。
この変異型Ca f 1タンパク質は、イヌアレルギー治療において「低アレルゲン化ワクチン」開発の候補タンパク質となる可能性があります。
候補を絞り込むためにはさらに研究が必要とのことですが、イヌアレルギーワクチンの開発は手の届くところまで来ていると言えるようです。
まとめ
イヌアレルギーを引き起こすタンパク質の構造が解析され、イヌアレルギーのワクチン開発のための候補となるタンパク質を作り出すことに成功したという研究結果をご紹介しました。
この研究が実際にイヌアレルギーワクチンの開発に使用された場合、同じ原理で他のさまざまなアレルギーに対しても使える可能性があるそうです。
研究者自身も今後のイヌ/ネコアレルギー治療法開発に向けた研究に期待してくださいと述べておられます。アレルギーが理由で犬や猫と接することを諦めている人にとって希望が膨らみますね。
《参考URL》
https://www.osakafu-u.ac.jp/press-release/pr20211108/
https://doi.org/10.1111/febs.16252