犬も不自然な動きの物体に注意を向けるだろうか?
私たちは日常生活の中で物体がどのように動くのかを自然と理解しています。物体は誰かが触ったり水や風の力がない限り、勝手に動き出したりはしません。
物体が物理的な法則に反する動きをした場合には、人はそこに注意を向け何が起こっているのかを見届けようとします。では犬の場合はどうなのでしょうか?
オーストリアのウィーン獣医科大学メッサーリ研究所の比較認知の研究者チームは、犬にリアルな3Dアニメーションで動くボールを見せて、物理的法則に反した動きに対する犬の反応を実験リサーチしました。
リアルなアニメのボール動画を犬に見せて実験
実験に参加したのは14頭の家庭犬たちでした。犬たちは参加にあたって顎乗せ台に顎を乗せてしばらく静止できるようトレーニングを受けました。
犬たちは3種類の3Dアニメーションの短い動画を見せられました。1つの動画はグレーの背景の中、画面の左から右に向かってボールが1つ転がっていくというものです。ボールは画面右端に到達する少し前に止まります。アニメーションはとてもリアルで、犬にとってはボールが転がるという慣れ親しんだ光景です。
別の動画では2つのボールが映っています。画面の左端に黄色地に黒の模様のボールがあり、少し離れて青地に白の模様のボールがあります。黄黒のボールが動いて青白のボールに当たると、黄黒のボールは止まり青白のボールが動きます。青白ボールは画面右端に到達する少し前に止まります。
残り1つの動画も同じように2つのボールが映っているのですが、黄黒ボールは青白ボールに当たる前に突然止まり、青白ボールは何もあたっていないのに突然動き始めます。青白ボールは画面右端に到達する少し前に止まります。
犬たちは3種類の動画をランダムな順番で見せられ、それぞれのビデオを見ていた犬たちの目がアイトラッキングシステムを使って観察されました。
ちなみに、生後6ヵ月の人間の乳児とチンパンジーで同様のテストをした場合、予想に反する動きをする物体をより長く見つめるのだそうです。
不自然な動きの物体に対して、犬たちの反応が最も大きかった部分
犬たちは、黄黒ボールが青白ボールに接触しなかった動画の中の黄黒ボールをより長く見つめていたことがわかりました。中でも特に黄黒ボールの動きが止まったあたりを長く見ていました。
画面を見ていた時間の長さよりもさらに顕著だったのは、犬たちの瞳孔の大きさでした。ボールが不自然に動く動画では、犬の瞳孔が他の動画を見ている時と比べて有意に大きかったことが分かりました。
上記のような犬の行動や瞳孔の大きさの変化は、動画の中のボールの動きが犬たちの予想に反していたことを示しています。つまり犬は自分が生きている環境の物理的な法則を暗黙のうちに理解し、次に起こることを予想していると研究者は結論付けています。
まとめ
犬たちに物理的な法則に反した動きをするボールの3Dアニメの動画を見せたところ、自然な動きの動画よりもボールの動きを長い時間見つめ、瞳孔も大きくなっていたという実験の結果をご紹介しました。
「AのボールがBのボールにぶつかるとBのボールが動く」というような物理的な因果関係について、霊長類以外の動物がどの程度理解しているのかについて今までほとんど分かっていなかったのだそうです。
この研究によって、犬の認知についての新しいことがまた1つ明らかになったと言えるでしょう。
《参考URL》
https://doi.org/10.1098/rsbl.2021.0465