犬との散歩と一人の散歩を比較
散歩やウォーキングが心と体の健康増進に役立つことは色々な研究によって証明されています。また犬と暮らすことのさまざまな健康上のメリットも明らかになっています。
では散歩をする時、犬と一緒に歩く場合と一人で歩く場合では体の状態に違いが出るのでしょうか?
この度、東京のヤマザキ動物看護大学の研究チームによって、この「犬との散歩と健康」について実験とリサーチが実施され、その結果が発表されました。
散歩中の唾液のホルモンレベルを調査
実験に参加したのは34組の犬と飼い主のペアで、このうち14組のサンプルが分析されました。
飼い主の年齢は45歳〜75歳で7割以上が女性で、犬たちはトレーニングを受けて穏やかに歩くことができ、極端に引っ張るなどの大きな個体差はありません。散歩中の匂い嗅ぎなどは犬が自由に行うことができます。
また、実験は暑い夏は避け春〜秋にかけて実施され、それぞれのペアは普段と同じ散歩コースを30分間(約2km)散歩します。
飼い主は配布された綿棒を口に入れて散歩中の唾液を採取し、同行した研究者が回収して冷蔵保管し、別の日に犬なしの単独での散歩の時も同様に唾液サンプルを採取しました。
唾液サンプルからは、幸せホルモンとも呼ばれるオキシトシン、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾール、その他の神経伝達物質が代謝する物質の値が測定されました。
犬と一緒に歩くと低下するホルモンとは?
オキシトシンという神経伝達物質は、他者に対する信頼や親近感を与える機能を果たし不安や恐怖を和らげる作用があります。
この実験では、犬と散歩することでこの物質が増えるかどうかが測定されたのですが、散歩前と散歩中では犬と一緒でも単独でもオキシトシンのレベルは少し高くなりました。
しかし、犬が一緒の時と単独の時の差は有意なものではありませんでした。
コルチゾールは身体がストレスを受けた時に急激に分泌される神経伝達物質です。実験の参加者のコルチゾールレベルは、散歩の前と散歩中でほとんど変化がありませんでした。
大きな変化が見られたのはMHPG という物質でした。これは強いストレスを感じた時に分泌されるノルアドレナリンという神経伝達物質が代謝する物質です。
コルチゾールのレベルが「今受けているストレス」を測定するものだとすると、MHPGは「少し前に受けて体に残っているストレス」を測定するものとも言えます。このMHPGが、単独での散歩に比べて犬との散歩中には大きく減少していました。
MHPGと反対に大きく増加していたのはGABAという神経伝達物質でした。GABAはイライラや精神的なストレスを緩和させる働きがあります。この物質が単独時に比べて犬との散歩中には大きく増加していました。
実験の結果から、犬との散歩はノルアドレナリンが代謝する物質を減少させ、心を穏やかにするGABAを増加させることで、人が単独で散歩するよりもストレスを緩和する効果が高いという結論が導き出されました。
まとめ
犬と散歩することは、一人で散歩するよりもストレスを緩和して心を穏やかにしてくれるという研究結果をご紹介しました。
犬と暮らしている人なら毎日実感していることかもしれませんが、身体が分泌する物質にはっきりとその違いが現れているというのは興味深いですね。
毎日のお散歩、何となく歩くよりも「この子と歩くとストレスが消えて心が落ち着くんだな」と意識することで、愛犬とのつながりもさらに強くなると思われます。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani11092732