馴染みのない言語を聞いた犬の脳の反応とは?
犬と暮らしている人の多くは、人間と会話するようにごく普通に犬に話しかけているのではないでしょうか。あまりそういうことはしないという家庭でも、犬は人間同士が会話をする音声やテレビの音声などを毎日継続して聞いており、その言語に馴染んでいます。
では普段は日本語に馴染んでいる犬が英語やスペイン語の会話を聞くと、犬の脳はどのように反応するのでしょうか?
また、犬が馴染んでいる言語であっても彼らは言葉の意味まで理解しているわけではありません。馴染みの言語を不自然な形にアレンジした場合に犬は「何かおかしい」と感じるのでしょうか?
このような点について、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームがMRI(磁気共鳴画像法)を使って調査し、その結果を発表しました。
馴染みの言語、知らない言語、不自然な話し方を聞く実験
よく知っている言語、知らない言語、不自然な話し方の言語を聞いた時、犬の脳がどのような反応を示すのかを調査する実験には3歳〜11歳の18頭の犬が参加しました。
犬たちのうち16頭は生活の中でハンガリー語をメインに聞いており、2頭はスペイン語をメインに聞いて生活しています。そのため実験にはこの2つの言語が使用されました。
研究チームはよく似た声質のハンガリー語のネイティブスピーカーと、スペイン語のネイティブスピーカーにそれぞれの言語の「星の王子さま」の絵本の朗読をしてもらい録音しました。
どちらも元気で快活な感じで魅力的に、読むスピードや声の抑揚などができるだけ同じ感じになるようデザインされたそうです。
録音された音声から完全な文章を抽出して、8.3秒の長さの音声データを各言語24個作成しました。これは犬にとって聞き慣れた言語と知らない言語の自然な話し方の音声刺激となります。
さらに録音された音声を機械的に切り離して、ランダムな順序に並べ替えるスクランブルをかけた音声刺激も作成されました。
スクランブルをかけた音声刺激は人間が聞くと意味がわからないだけでなく、イントネーションやアクセントやリズムも乱れており不自然な調子になっています。
犬たちがこれらの音声刺激を聞いたときに脳がどのような反応を示したのか、MRI装置を使って観察されました。実験に参加した犬たちは、麻酔や鎮静剤なしでMRI装置の中で落ち着いて座っていられるよう、あらかじめトレーニングを受けています。
MRIを使って観察した犬の脳の反応はどんなものだったのか?
MRI装置の中に座って音声刺激を聞いた犬たちの脳は、音声を検出する聴覚領域が反応を示しました。
次に犬にとって馴染みのある言語の自然な話し方と、馴染みのある言語にスクランブルをかけた話し方を聞いた場合を比較すると、脳はそれぞれ異なる活動パターンの反応を示しました。
馴染みのある言語の自然な話し方と、知らない言語の自然な話し方でも脳の活動パターンは異なっており、これは馴染みのある言葉のスクランブルの時とも違うパターンを示しました。
馴染みのある言語と知らない言語の両方にスクランブルをかけた音声刺激では、脳の活動パターンに違いは見られませんでした。
上記の結果から、犬の脳は会話音声の自然さを感知し、言語を区別する能力があることを示したと研究者は述べています。
また会話音声の自然さへの反応は頭部の形状が長い犬種の方が敏感であったことから、人間が犬に音声でキューを出す場合の反応が、犬種によって差があることを反映していると考えられます。
また年齢の高い犬では、馴染みのある言葉とない言葉への反応がより大きな違いを示していました。これは長年特定の言葉を聞き続けた事によるものと考えられます。
まとめ
犬は普段聞いている馴染みのある言語と外国語を「違うもの」として区別することができ、不自然にアレンジした話し方も「いつもと違う」と感知することができるという実験の結果をご紹介しました。
このように人間が話す言葉を、犬の脳がどのように感知しているのかが明らかになっていくことは、犬とのコミュニケーションをよりスムーズにするためにとてもありがたいことです。
そして犬に対してごく自然に話しかけることは、犬にも自然なこととして受け止められているというのは嬉しい報告ですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2021.118811