犬の記憶域
犬の記憶は、心理学上で「記憶の保持時間」に着目すると、以下の3つに分類することができます。
感覚的記憶
人や犬の生活には、常にたくさんの情報が溢れています。しかし、ほとんどの情報は生きるのに重要な情報ではありません。そのため、ほとんどの情報は短時間だけ脳に保存され、すぐに消えていきます。
例えば散歩ですれ違う人の顔は目で見えているはずなのですが、3秒後にただすれちがった人顔を思い出そうとしても、鮮明には思い出せないものですね。これは「感覚的記憶」として脳が処理しているからです。
短期的記憶
短期的記憶は、一時的に必要な情報を保存し、その情報を「すぐに使う場合」などに使用されます。人の場合でも短期的記憶は、最高約7つまでしか脳内に保存できません。
その時間は、約10秒~15秒、長くても1分程しか保存できないと言われています。情報を記憶の必要性が高いと脳が判断した場合には、次の「長期記憶」のゾーンへと送られます。
長期的記憶
犬の「しつけ」と呼ばれるものは、この長期的記憶を指す場合がほとんどです。
犬の脳内に長期的に残りやすいものは「エピソード記憶」というもので、飼主さんの指示(コマンド)、自身の行動、報酬(ほめてもらったり、ご褒美をもらうこと)加えて周囲の状況など、そのときの感情が結びついて脳内に強くインプットされます。同じことをくりかえすたびに脳内で固定化されていきます。
3つの原因
さて、少し固いお話が続きましたが、ここからは、犬との生活の中で「あれ?しつけを忘れちゃったかな?」と感じる行動の原因を3つ見ていきましょう。
1.定着不足
しつけのインプットには成功しても、これを定着させるのがしつけの難しさです。よく「しつけは根気がいる」。といた言葉を聞くと思いますが、根気が必要なのは、インプットよりも定着させる段階です。
2,3回成功したからと言って、しつけが終わったなどと勘違いしてしまう飼主さんは多いもの。しかし、それはインプットが成功したに過ぎず、長期的記憶として犬の記憶に留めるためには丁寧な反復作業が必要です。
2.一定的でない
「オスワリ」と指示を出しても、できるときと、できないときがある。やりたくないからと言ってワザとスルーしているの?それとも、忘れちゃった?などと思う日もあるでしょう。
この原因は、定着不足ということもありますが、もうひとつ。犬ではなく、飼主さんの方に原因があることも。例えば、犬のコンディションが良くないときにいくら指示を出しても、これは反応が悪くてもいたしかたのないことでしょう。
また、指示の口調や言語は一定に統一しているでしょうか。同じオスワリでも、「座って」、「オスワリしてよ」、「座りなさいと言っているでしょう?」など、指示が一定でない場合は犬は混乱しますので、記憶域に深く刻まれないことが多いのです。
3.感情の変化
この場合の感情とは、犬の受ける感情を指します。長期的記憶であるしつけを定着させるためには、環境を含めた報酬、嬉しいという感情がマストです。この相互関係が崩れると、一度喜んで覚えたはずのしつけも、徐々にそれを回避するようになってしまいます。
例えば、飼主さんにとって望ましい行動をしたにもかかわらず、報酬がもらえない(ほめる、オヤツなど)から、つまらないという感情を抱いた。とか、同じ行動をしたはずなのに、なぜか理不尽に怒られて不快な感情を持った。などがこれにあたります。
思い出してもらうための方法
しつけとは長期的記憶のことです。原因がなんであれ、しつけを忘れるというメカニズムには長期的記憶の定着不足、または何らかの出来事によるブロークンが考えられます。
いずれにしても、教えなおしましょう。こうお伝えすると、教えなおしに抵抗があるという飼主さんも少なくありません。「せっかくちゃんと教えたのに、またですか?うちの子は頭が悪いのではないでしょうか」。とおっしゃる方も。
しかし、そのように思わないでほしいのです。犬によって、定着に時間と回数を重ねるのが必要な子もいます。また、成犬になってもふとしたきっかけで急にできなくなってしまう子も。
そんなときはもう一度、初めに犬に教えたシーンを思い出してみてください。そのとき覚えてくれたのは、飼主さんが丁寧に教え、反復させ、よくほめたから、ではなかったでしょうか。
まとめ
一度教えただけでそれを生涯忘れない。というしつけの覚え方を、私たち飼主は犬につい求めてしまいます。しかし、忘れる、または忘れるようなそぶりをする犬の気持ちを理解し、それぞれに飼主さんがアシストしてあげることで、記憶の定着や上書きは可能です。
どうか「うちの子、頭が悪くて」なんておっしゃるのはもうやめにして、何度だって教えなおし、復習にトライしてみましょう。犬は学習する生き物です。私たち人も、それを見習いたいものですね。