聴導犬のサポートに関する初めての調査
聴覚の不自由な方にとって、生活をサポートする聴導犬が大きな助けであろうことは想像がつきます。しかし聴導犬は盲導犬に比べて歴史が浅く、人々の生活にどのくらいの影響を及ぼすのか今まで調査されていませんでした。
補聴器やリハビリテーションの効果が低い場合、聞こえないために社会的に孤立してしまったり、不安やうつ症状などの精神的な問題に対応する必要があります。このような問題に聴導犬は解決策となるのでしょうか。
イギリスのヨーク大学の社会政策研究のチームは、聴覚障害者のための補助犬が上記のような問題について人々に与える影響について初めてのテストと調査を実施しました。
聴導犬がもたらす影響はどのようにテストされたのか
イギリスで唯一の聴導犬の繁殖、訓練、申請者への貸し出しを行なっているチャリティ団体『Hearing Dogs for Deaf People』がテストと調査に協力しました。参加者は同団体への聴導犬の申請をしてきた人々165名でした。
165名の人たちは無作為に半々の2つのグループに分けられました。聴導犬の受け取りまでに通常は審査や希望者と犬のマッチングなどで3〜6ヵ月の待機期間がありますが、1つのグループは通常の待機期間よりも早く聴導犬を受け取り、もう1つのグループは通常の待機期間で聴導犬を受け取りました。
このようにして、通常の待機期間よりも早く犬を受け取ったグループが聴導犬と暮らし始めてから6ヵ月後に両方のグループが精神的な健康状態のチェックや、ナショナルヘルスサービス(イギリス版国民健康保険)や公的な社会支援の利用状況が比較されました。
聴導犬の恩恵と社会的な費用対効果
上記のような条件の下、聴導犬を早く受け取ったグループの人たちは通常の待機期間の人々に比べて、不安、抑うつ、恐怖、社会的孤立、他者への依存性などが著しく良い状態を示していました。
また、聴導犬と暮らし始めた人々はナショナルヘルスサービスや公的社会支援を利用する率が低下していました。この結果は、少なくとも短期的には聴導犬が利用者に多くのメリットをもたらしていることを示しました。
聴導犬の訓練や派遣にかかる費用は全てチャリティ団体が受け取る寄付金によって賄われているため、聴導犬が派遣されて健康保険や社会支援の利用が減ることは、社会的な費用対効果がとても高いと言えます。
個人のメリットだけでなく社会全体でも費用対効果が高いことが分かれば、補助犬育成の費用への公的支援の検討などが期待できます。
まとめ
聴導犬が利用者に精神的な安定をもたらしていることをテストによって明らかにした調査結果をご紹介しました。
聴導犬についての研究や調査はまだまだ途上段階のようで、この調査結果が今後の聴導犬研究や効果の測定に幅広い影響を与える可能性があるということです。
今回の調査は短期的なものでしたが、聴導犬がもたらす長期的な影響を判断するために、さらに調査や研究が必要であると研究者は述べています。
《参考URL》
https://trialsjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13063-021-05607-9
https://www.york.ac.uk/spru/projects/pedro/