純血種の犬の「見た目」を作るための交配
純血種の犬の選択繁殖が、人間の好みを基準にした見た目を作り上げるために、身体機能や健康を犠牲にしてきたことは長年にわたって問題視されています。極端な外見は出産時の困難、先天的な健康障害、遺伝病の蔓延にもつながっています。
親子や兄弟など近親系の交配が健康上の問題を生み出すことは広く知られているにも関わらず、犬種の見た目を強調させるために行われているのも事実です。
カリフォルニア大学デービス校の獣医遺伝学の研究チームは、ペット遺伝子検査のWisdom Health Genetics社と提携して純血種の犬における近親交配の現状を調査し、その結果を発表しました。
危険域に達している犬の近親交配レベル
現代の犬種のほとんどは過去200年以内に確立されたものです。それぞれの犬種は少数の作出者によって厳選された形態、サイズ、色などが特徴付けられました。
犬種が確立された後の約200年の間に犬種の人気の上下などで犬種の個体数の変動は何度となく起きています。そのように特定の犬種が少なくなった時の遺伝的多様性の低下、約100年前に導入された閉鎖的な血統証明書などの要因が純血種の近親交配に強く関連しています。
近年の遺伝子研究の発達によって、遺伝子型に基づいた近親交配レベルの測定が可能になりました。
研究チームはペット遺伝子検査の会社Wisdom Health Genetics社のデータベースから227犬種49,378頭の犬の遺伝子データを分析しました。同社のデータは主にヨーロッパから収集されています。
遺伝子分析の結果に基づくと、227犬種の近親交配レベルは25%という高い数値を示しました。この数値は人間または野生動物の集団において安全と言えるレベルをはるかに超える数値だということです。
他の種の動物の研究で、近親交配レベルの高さがガンや自己免疫疾患などの複雑な病気と重なることを示すデータがあります。このことからも犬の近親交配が、犬の健康にとって大きな危険要素であるとわかります。
なぜ犬の近親交配が行われるのか?
いくつかの犬種では25%よりもさらに高い近親交配レベルが確認されました。また大型犬ではその傾向が顕著でした。
研究者は犬種によるレベルの違いの理由として「最初にその犬種を作出した集団が少数で構成されていたこと」と「作出後に犬種特有の形質を固定させるためにより強力な選択繁殖を行なったこと」を挙げています。
多くの場合、犬種特有の形質とは犬種の目的ではなく犬の見た目のことを指します。
これとは反対の例として、研究者はダニッシュ・スウェーディッシュ・ファームドッグという犬種を例に挙げています。この犬種はイギリスの短毛テリア種や、ドイツのピンシャーに近い形の中型犬で農場のネズミやウサギの駆除、牧畜犬などとして働いています。
ダニッシュ・スウェーディッシュ・ファームドッグは近親交配のレベルが低く、最も健康な犬種のひとつとされています。この犬種は最初に作出した集団が200という多数であり、見た目ではなく働く犬としての能力が重視されて繁殖されて来ました。
血統のみに基づいた繁殖のマッチングが誤りであることは既に認識されていますが、現在の近親交配を避ける計算方法は不十分で高レベルの近親交配は改善されないと研究者は述べています。
犬種の遺伝的多様性と、健康を維持するための手段として研究者が述べているのは、ジェノタイピング技術(身体的な差異と病理学的な変化の両方を含めて、遺伝子表現型に変化をもたらす小さな遺伝的差異を検出する技術)を使って近親交配レベルを監視すること、そしてブリーダーへの教育です。
まとめ
大規模な遺伝子分析によって現在の純血種の犬種の近親交配レベルが非常に高いことが分かったという報告をご紹介しました。
異系交配は既にいくつかの犬種で積極的に取り入れられていますが、それが本当に犬種の遺伝的多様性を高めるのか、つまり近親交配を減らすことにつながるのかは慎重に検討する必要があると研究者は述べています。
遺伝子研究や、それらを取り入れた交配などと言われると一般の飼い主には縁のないことと思われるかもしれませんが、遺伝に関連する病気が発症した場合には当の犬と飼い主さんが最も辛い思いをすることになります。
犬に関わるトップレベルの人だけでなく、一般の飼い主の知識やモラルのレベルを上げることも犬全体の健全性を高めるために必要です。
《参考URL》
https://cgejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40575-021-00111-4