ワガママか、それ以外か
生まれつきワガママな犬は、いません。こう書いてしまうと少々語弊があるような気もしますが、ここでみなさまにお伺いします。犬がワガママだと感じたことがありますか?また、それはどんなシチュエーションだったのでしょうか。
ある調査によると、この質問の回答には以下のようなものがありました。
≪例≫
- 飼い主に対してうなる
- 好みの食事しか食べない
- 散歩のとき、行きたい方向へ引っ張って行く
- 促してもサークルやケージに絶対に入らない
少々、辛口ですが
「それそれ!」と思い当たる項目があった方は注意が必要です。何の注意かと言うと、犬ではありません。では、注意が必要なのは誰でしょうか。
少々辛い書き方で申し訳ありません。しかし、これらの例を見る限り、例に挙げられたものは犬のワガママな性格が問題なのでしょうか。そうではなく、それらを許してしまった状況。また飼主さんのミスリード、基本的な考え方への誤解があるように私には見えます。
では、ここから具体的なケースを使ってご説明します。
NGしつけ集3つ
1. 叱って怒って万事解決
「コラ~!言うことを聞きなさい!」と、飼主さんが大きな声で叱れば、たいていの犬はスゴスゴとした姿をしてなにかしらの行動をするものです。
しかし、それは飼主さんの乱れた心の表現に驚いて、なにか反省したような表情や、今までの経験からこうすれば飼主さんの怒りが鎮火するだろうと予測して行動しているだけなのです。当然ですが、叱ったり怒ったりですべてのワガママと言われる行動が止めはずもありませんよね。
2. 面倒だからスルー
「時間がないから、かまっていられないから」。とにかく忙しさに蝕まれるのが日常というもの。しかし、愛犬のいつもと違う自分本位な行動を、見て見ないふりをして放置していませんか。
このケースでは、様子を見てから対処するというものとは異なり、犬のことは面倒だし、下手に怒って唸られでもしたら嫌な思いをするし…。と、問題行動の可能性がある芽をスルーしてしまう残念な飼主さんがいます。「大らかにしつけをしたつもりだったんだけどワガママで」。と、放置の言い訳を犬だけの責任とするのは考えものです。
3. しつけとは無関係
これはしつけ方ではありませんが、ワガママな行動だと一方的に決めつけてしまうのはいかがなものでしょうか。例えば「食べムラがある」に代表されるような問題です。もしかするとそれはワガママではなく、管理不足ではありませんか?
おやつをあげすぎてしまったために食欲が沸かず、匂いの強いものなら食べてくれる、といった状況では、犬のワガママだとは思えません。ワガママか、それ以外か。見極めが必要です。
しつけ方の正解とは
では、正しいしつけ方とは、いったいどういったものでしょうか。子犬編と、成犬編に分けて考えてみたいと思います。(ただし、大型犬の成長はとても緩やかですから、犬種ごとの成長に合わせた対応が必要です)
≪子犬編≫
実は、しつけ方に絶対な正解や教科書はありません。ただ一つだけ言えるのは、愛犬の気持ちをより深く理解することが、すべてのワガママ問題解決への近道です。子犬の場合のワガママは、そのほとんどが飼主さんのミスリード。すなわち、導きと理解が足りないためにその状況を作り出しています。
しつけとは指示することではありません。正解の行動へとうまく導いてあげると、スルリと驚くほどに早く飲み込んで理解してくれるものです。ただし、一度成功したからといって、ずっと永遠にそれをマスターしたというわけではありません。
導入がうまくいったら、次は反復、定着させる作業が必要で、ここが分かれ道ともいえるしつけのキモの部分。いずれもキーワードは「導く、ほめる」です。子犬は手をかけた分だけ、必ず脳に刷り込まれていくものです。子犬を育て中の飼主さんたちも、もう少しできっとお利口な成犬になりますから、焦らずに導入と定着を続けてくださいね。
≪成犬編≫
さて、成犬の場合はどうでしょう。「昔はお利口だったんだけど、いつの間にかワガママになっちゃって…」。というお悩みを持った飼主さんは多いですね。いったい、なぜでしょうか。これには理由があります。
さきほどの飼主さんのお悩みのフレーズを訓練士の私から見て言い換えると、こうです。「幼い頃は飼主さんが一生懸命ほめて導き定着させたから、たくさん良い行動が強化されて成功した。にも関わらず、いつの間にか良い行動をほめなくなり、いつの間にか良くない行動をあいまいに許し続けてしまった。その結果、飼主さんがワガママ犬認定をしてしまった。自身の行動も振り返らずに」。です。
いささか辛辣な表現になりましたが、我慢して、愛犬のためにもう少しだけ読んでいただければ幸いです。
まず、ワガママに見える行動を作り出したのは、環境です。この場合の環境というのは、飼主さんと愛犬の行動、ひとつひとつの積み重ねに他なりません。飼主さんのあいまいなOKとNOの境界線。日によって違う指示。また、犬同士のケンカや、テーブルの上の人の食事を盗み食いするなど、思わぬシチュエーションが創り出してしまった突発的な事態もあったでしょう。
そのとき、飼主さんの反応はどういったものだったでしょうか。振り返ってスローモーションにして考えてみましょう。予期せぬ事態は避けられないものですが、そうした経験が重なれば、犬の脳には「あ、これがOKなんだ!次回もこうすれば旨味が味わえる!いい気分になれる!」と浸透していきます。
幼い頃を思い返してみれば、トイレをちゃんと覚えてくれたのも、マテを覚えてくれたのも、これと同じことではなかったでしょうか。良いことも、悪いことも、すべて飼主さんと犬の歩いてきた道そのものの結果なのです。
まとめ
思わず熱が入ってしまいましたが、いかがでしたか。犬がワガママになる『NGな飼い方』3つと、正しく伝えるしつけ方。これについて、きっと皆さまにご理解いただけたと信じています。
ワガママに感じられたら修復が必要ですが、修復とは矯正や強制ではありません。これまでの道のりを少し振り返り、少しだけ型崩れしまった糸のもつれを解きなおすようなものです。地味ですが、大事な修復作業だと思いませんか。