盲導犬候補の犬とフォスターファミリー
盲導犬の育成は社会の中の大切な事業のひとつです。国によって少しずつ仕組みが違いますが、本格的な訓練に入る前にボランティアの一般家庭にフォスターファミリーとして預かってもらうシステムが採用されている場合が多いです。
日本ではパピーウォーカーという名前がよく知られていますね。
フランスの一部の盲導犬育成団体では、トレーニングの一環として月曜日から金曜日までフォスターファミリーから離れることが義務付けられています。
この点についてフランスのIRSEA研究所(動物と人間の行動、相互作用、化学的コミュニケーションの研究を専門とする研究機関)が、犬のホルモンレベルを測定してフォスターファミリーからの分離の影響を調査し、その結果を発表しました。
数日おきに生活環境が変わる犬のストレスを測定
上記のように一部の団体が実施しているシステムは、月曜日から金曜日の間は盲導犬育成団体の犬舎で過ごし、フォスターファミリーとは週末の2日間だけを一緒に過ごすというものです。
これは短いスパンで分離が繰り返され生活環境が絶えず変化することになります。特にまだ幼い犬にとってはそのような状態はストレスにつながりやすいため、犬の福祉の低下と盲導犬として将来のパフォーマンスに影響を与える可能性があります。
研究者は3週間にわたって対象となった犬たちの唾液中のコルチゾールとセロトニンのレベルを測定しました。
コルチゾールは、心身がストレスを受けると身を守るために分泌が増えることから「ストレスホルモン」とも呼ばれています。セロトニンは神経伝達物質のひとつで精神を安定させる働きを持っており、脳を活発に働かせるキーとなります。
コルチゾールとセロトニンという生理学的な数値と同時に犬たちの行動も観察分析されました。
ホルモンレベルと犬の行動からわかったこと
測定の結果、コルチゾール値はフォスターファミリーから分離の際に有意に増加していました。犬たちはやはり違う場所に移る際にストレスを感じていることを示しています。
3週間のテスト期間を通じてセロトニン値は増加していました。セロトニンの増加は育成団体の犬舎でトレーニングを受けたり、他の犬と過ごすこと自体は犬にとってストレスが少ないものであることを示しています。
フォスターファミリーから離れた月曜日には、犬たちはいつも集中度が低下していました。しかし3週間のテスト期間にわたって犬たちのパフォーマンスは向上していたので、トレーニングそのものには適応していることが伺えます。
行動面では、フォスターファミリーのもとに戻る前日の金曜日には犬たちの行動は他の日よりも受動的でした。トレーニングの際に何かを積極的に観察したり考えたりする頭部の動きが少なくなっていました。
これらの結果は犬たちが犬舎での生活に適応できることと、2つの違う生活環境に毎回再適応する必要があるという両方を示しています。研究者はフォスターファミリーからの分離を繰り返し継続性が損なわれるトレーニングプログラムに対して疑問を呈しています。
今後は、常に団体の犬舎でのみ暮らす犬たちとの比較など、さらに研究を進めるとのことです。
盲導犬育成という、ともすれば称賛一辺倒にもなりやすい団体のトレーニング方法について犬の福祉を客観的に測定する研究機関があるというのは良いことですね。
まとめ
フランスの一部の盲導犬育成団体が実施している、月〜金は団体の犬舎で暮らし週末はフォスターファミリーのもとに行くというプログラムが、犬たちのストレスと集中力の低下につながっているという研究結果をご紹介しました。
盲導犬の育成は高度なトレーニングの場ですから、犬舎でもフォスターファミリーでも十分に配慮がされていると思われますが、それでも短期間に分離や環境の変化を繰り返すことで、ストレスやパフォーマンスへの影響が見られます。
このことは一般の家庭犬の飼い主も心に留めておくと良いかと思います。どうしてもやむを得ない場合もありますが、犬を頻繁に預けたり環境を変えることは犬の心に良い影響にはなりません。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0168159121002732?via%3Dihub