犬の飼い主は匂いで愛犬を識別できるのだろうか?
嗅覚で何かを識別すると言えば、多くの人が一番に頭に浮かべるのは犬のことでしょう。では私たち人間の嗅覚についてはどうでしょうか?
犬には遠く及ばないとは言え、嗅覚は人間にとっても生活の中で重要な役割を果たしており、身近な友人や家族を匂いで識別できることがわかっています。また他の研究では人間以外の違う種の生き物の匂いも識別できると報告されているそうです。
この度、チェコのチェコ生命科学大学プラハの研究者が、犬の飼い主は自分の犬の匂いを識別して他の犬と区別できるかどうかを調査する実験を行い、その結果を発表しました。
愛犬の匂いサンプルを収集して実験開始
「うちの犬の匂いくらいわかるよ!」という方も多いかと思いますが、実験のためのサンプル収集の過程を聞くと、少しハードルが高くなったように感じるかもしれません。
実験に参加したのは53人の犬の飼い主たちで、内訳は女性40人男性13人でした。飼い主の年齢は3歳から72歳までとたいへん幅広く平均年齢は32歳でした。
滅菌ガーゼパッドを使って犬の匂いサンプルを収集し、サンプルは収集直後に滅菌ガラス瓶で保管されました。収集の手順は犯罪捜査で用いられるのと同じ方法で行われました。
犬のサンプルは飼い主自身が実験者の目の前で収集しました(子どもの場合は保護者が収集)サンプルには視覚的な識別につながる犬の毛がついていないこともチェックされました。
参加者は愛犬の匂いサンプルを含む6つのガラス瓶に入ったガーゼパッドを嗅いで自分の犬の匂いを選びます。実験の段階では実験者もどれが正解かは分からない状態で、参加者は時間制限などは無しに納得の行くまで匂いを嗅ぐことができました。
匂いの識別正解率に関連していたこととは?
さて、気になる実験の結果は「飼い主はかなりのレベルで愛犬の匂いを識別できる」というものでした。具体的な正解率は71.43%。正解率7割以上はかなり高いレベルですね。さらに、いくつかの要因が正解率に関連していたこともわかりました。
1.性別
男性と女性の正解率を比べると、男性89.47%に対し女性64.71%と男性の方が有意に高い率を示していました。過去の他の研究では女性の嗅覚は男性よりも優れていることを示すものが複数あるのですが、ここでは反対の結果が出ました。
2.年齢
実験の参加者の年齢が若いほど正解率は高くなっていました。これは嗅覚は年齢と共に低下するという過去の研究と一致しています。
3.飼育環境
屋外で犬を飼育している飼い主と屋内飼育の飼い主では、屋外の飼い主の正解率がより高くなっていました。
屋内で犬と暮らしている飼い主は犬の匂いに慣れてしまっているので、匂いで識別することが難しくなった可能性もあるのですが、人間は普段慣れ親しんだ匂いはより識別しやすいという説もあるため、今後さらに調査が必要だとしています。
4.食事
ドライフードを与えている飼い主とBARFダイエット(生肉食)を与えている飼い主では、ドライフードの飼い主の正解率が高くなっていました。
これについて研究者は面白い仮説を立てています。過去の嗅覚の研究では、女性は果物や野菜を多く食べる男性の体臭を好む傾向があるのだそうです。
この実験の参加者は女性が多く、彼女たちはBARFダイエットで肉を多く食べる愛犬よりもドライフードを食べている犬の匂いを好ましく感じたことが正解率の低下につながったのではないかとしています。
5.入浴回数
入浴回数は正解率に大きく関連していました。頻繁に犬をシャンプーする飼い主ほど正解率は低くなっていました。
研究者は「人間の嗅覚は決して能力が低いものではなく、かなり高い正解率で自分の犬を識別できる」としていますが、より正確な結果を出すために将来の研究では、データを適切にコントロールする必要についても言及しています。
まとめ
さまざまな年齢の53人の犬の飼い主が6つの匂いサンプルから愛犬の匂いを選び出すという実験で、7割以上の正解率が示されたという調査結果をご紹介しました。
研究者自身が将来の研究ではもっとデータをコントロールする必要について述べている通り、飼い主の性別による比較は家族で飼っている犬を対象に同じ家庭の男性と女性で比較した方が良いと思われますし、食事による犬の体臭についても人間の食事と比べるのは無理があると思われます。
しかし、人間が愛犬の匂いを識別できるかどうかというのは興味深い研究です。今後の新しい報告をまた楽しみにしたいと思います。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-02238-7