愛犬に保湿が大切な理由
犬は全身を被毛で覆われ保護されている分、皮膚が薄くデリケートです。
成人の皮膚は厚さが0.2mm、新生児でも0.1mmありますが、犬の皮膚は0.05〜0.1mm程度しかありません。
皮膚の重要な役割は、バリア機能です。
外の環境から外敵となる病原菌などが体内に侵入するのを防ぐと共に、体内の必要な成分が失われることも防いでいます。
たとえ健康な皮膚であっても、シャンプーの後は皮膚から水分が抜けていきやすい状態になります。
また、アトピーなどのアレルギーを持つ犬は、元々皮膚のバリア機能が弱く、水分が抜けやすいことが分かっています。
皮膚の水分不足は、皮膚細胞の新陳代謝のサイクルを乱してバリア機能を低下させる原因となります。
そのため、犬にとって日常的な皮膚の保湿ケアは大切です。冬は空気が乾燥しがちですので、特に注意が必要です。
保湿の効果
ヒトに対する研究で、アトピー体質を持つ家系の新生児に生後3週〜6ヵ月までの期間毎日しっかりと保湿を行うと、保湿をしなかった新生児に比べてアトピー性皮膚炎の発症率が低いという報告があります。
保湿による皮膚バリア機能の維持向上は、アトピー性皮膚炎の他にも、花粉症や食物アレルギーなど他のアレルギー疾患の発症リスクを低減できるとも期待されています。
このように、保湿には即効性はないものの、継続すれば大きな効果を生むと考えられ、現在は犬のスキンケアとしても重視されています。
保湿剤の種類
皮膚は、皮膚の表面にある皮脂腺や、角質細胞同士をつなぎとめている角質細胞間脂質、表皮の角化細胞層などが水分を保持し、乾燥を防いでいます。
人工的にこの保湿をケアするための保湿剤には、大きく2つの種類があります。
1つは、表皮に塗布して皮膚から水分が蒸散していくことを防ぐ閉塞剤です。
具体的な成分は、ワセリン、スクワランなどの油性成分です。
もう1つは水分の保持作用がある成分で、角質細胞に水を含ませる保湿剤です。
具体的には、グリセリンなどの多価アルコール、ヒアルロン酸・コラーゲンなどの生体水溶性高分子、アミノ酸・尿素などの天然保湿因子やその類似成分、セラミド・脂肪酸エステルなどの細胞間脂質成分などです。
愛犬のための保湿方法
1.保湿剤の使用
前述の通り、シャンプー後は皮膚の水分が失われやすいので保湿は必須です。しかし、それとは別に日常的な保湿ケアも必要です。
アトピー性皮膚炎を持つ犬に、3日に1回、あるいは週に3回セラミド配合保湿剤を塗布した場合に、角質層の構造が改善して皮膚症状が軽減したという報告があります。
一般的に、犬用の保湿剤には複数の保湿成分が配合されています。
保湿剤を塗布し、その上に閉塞剤を塗布するという方法も効果が期待できます。
愛犬の皮膚の状態や各成分の特性を考慮して、かかりつけの獣医師とよく相談しながらケアしましょう。
2.シャンプーの方法
シャンプーは皮膚の汚れを落とすため、衛生管理上重要です。
しかし、前述の通りに皮膚バリア機能を低下させるリスクもありますので、頻繁なシャンプーは乾燥肌を悪化させることにもなりかねません。
多少の汚れはシャンプー以外の方法でも落とせます。健康な犬の場合、シャンプーの頻度は月に1〜2回程度が良いといわれています。
また、シャンプーの仕方にも注意が必要です。
まず使用するお湯は、35℃前後のぬるま湯とし、シャンプーの種類もかかりつけの獣医師と相談して愛犬の皮膚の状態に適したものを選びます。
シャンプーの原液を直に愛犬の皮膚につけるのも厳禁です。事前に十分きめ細かく泡立ててから、身体に塗布します。
また、シャンプーの時間以上に時間をかけてすすぎ、十分にシャンプーを洗い落とすことも大切です。
シャンプーを落とした後は必ず保湿を行い、しっかりドライイングします。
ドライイングの基本はタオルドライです。吸水性の良いタオルを使用しましょう。タオルだけでは十分に除去できなかった部分にのみ、ドライヤーを使用します。
ドライヤーは、人間の皮膚に当てても熱くない温度と風量で乾かします。ドライの後に皮膚が乾燥してしまった場合は、追加で保湿剤を塗布します。
なお、皮膚を乾燥させないようにと生乾きのまま放置してはいけません。皮膚や被毛が水分を含んで柔らかくなり、皮膚のバリア機能を低下させ、細菌などの繁殖原因になります。
3.暖房時の湿度
寒い冬にはどうしても暖房器具を使用します。しかし、暖房器具は乾燥を招きます。
暖房器具を使用する際には加湿器も併用する、または濡らしたタオルを室内に干すなどの方法で、50〜60%の湿度が保てるように工夫しましょう。
4.防寒着の素材
寒い日の散歩では、防寒着を着せることもあるでしょう。
防寒着の素材には、綿や羊毛などの天然素材のものを選ぶと、乾燥肌の対策に効果があるといわれています。
まとめ
スキンケアは、シャンプー、保湿剤の塗布、ブラッシング、住環境の衛生管理などの外からのケアと、栄養バランスの取れた食事や規則正しい生活、ストレスのない生活といった、内からのケアの双方が必要です。
皮膚の状態の悪さは、寿命に直結するわけではありません。
しかし、皮膚のバリア機能が低下し、常に痒みを伴ったような状態は、愛犬の生活の質を著しく低下させ、愛犬の心身の健康を害する原因となり得ますので、十分に注意してあげましょう。