犬の不妊化の新しい方法の研究がタイでスタート
望まれない犬の繁殖を防ぐための方法は、現在も犬の生殖器官を取り除く外科的な不妊化手術が一般的です。
しかし外科手術は犬の身体への負担が大きいこと、生殖器官を取り除くことでのちに他の病気のリスクが高くなる可能性から、犬の不妊化手術については論争の種になりがちです。
とは言え、南アジアや東南アジアの国では路上で自由に暮らしている犬が多く、過剰な繁殖を防ぐために路上の犬たちに不妊化手術を施して頭数の管理をすることは非常に重要です。タイもそのような路上の犬たちを多く抱えている国のひとつです。
タイでは動物福祉団体などが路上で暮らす犬に不妊化手術やワクチン接種を施して、元いた場所に戻すTNR活動を実施しています。TNRは日本では野良猫の数を人道的で緩やかに減らすための方法として知られています。
そのような動物福祉団体の中でも屈指の大規模団体であるソイドッグ基金が、タイの国立大学チュラーロンコーン大学獣医学部と共同で、手術が不要な犬の不妊化方法についての研究に着手したという報道がありました。
手術が不要な不妊化の方法が求められる理由
ソイドッグ基金は2003年以来タイ全土で62万匹以上の犬と猫に不妊化手術とワクチン接種を行なってきました。これは世界中の動物福祉団体の中で最も多い数なのだそうです。
タイで一般的な犬の不妊化の方法は外科的な手術と、性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌をストップさせる黄体ホルモン類似物質の注射です。
外科的な手術は犬の身体への負担とコストが高いこと、黄体ホルモン類似物質の投与は子宮内膜症のリスクが高くなるという副作用があります。そのため、安全で効果が高く低コストで行える犬の不妊化の方法が必要とされています。
安価で簡単な方法で犬の不妊化ができるようになれば、福祉団体に頼らずに不妊化の処置をする飼い主が増えることも期待できます。
研究される方法は卵母細胞の発達に関連するタンパク質の解明
研究が始められた新しい方法とはどのようなものなのでしょうか。研究のポイントとなっているのはタンパク質だということです。
妊娠にはメス犬側では卵子が必要です。この卵子の前の段階では、卵原細胞が増殖して卵母細胞となり、卵母細胞が減数分裂を経て卵細胞となり卵子へと分化していきます。
この一連のプロセスに関与しているタンパク質を特定解明することで、受精を防止する薬や卵子の成熟プロセスを中断させる方法が見つかる可能性があります。
この分野の研究は非常に少なく、2010年以降に雌犬の生殖器官のタンパク質について調べた論文は世界の研究データベースで3つしかないのだそうです。
ソイドッグ基金は、不妊化手術のために切除した卵巣、子宮、内皮細胞や血液サンプルをチュラーロンコーン大学の研究チームに提供します。これらのサンプルから目当てのタンパク質を特定解明するという結果を得るには約1年かかると予想されているそうです。
タイの路上で暮らす犬たちの多くは地元の人々に受け入れられ比較的穏やかに暮らしていますが、いざ病気や怪我の時には責任を持って世話をする人が決まっていないため、悲しい最後を迎えてしまうこともあります。
また犬が増え過ぎてしまうと、地元の人の生活に悪影響となる場合もあります。このような事態を防止するためにも犬の頭数コントロールは重要です。
犬の頭数をコントロールする安価で簡便な方法が開発されれば、動物福祉団体はリソースを地元の人々への啓蒙活動や保護した犬のケアに割り当てることもできますので、新しい研究への期待が膨らみます。
まとめ
タイの大学の獣医学部と動物福祉団体が共同で、手術をしないで犬の不妊化を行う方法の研究をスタートさせたという話題をご紹介しました。
犬の科学的な研究というと欧米諸国にばかり目が行きがちになりますが、アジアにおけるこのような研究は日本人にとっても参考になる点がありそうです。今後の展開がさらに楽しみです。
《参考URL》
https://www.soidog.org
https://www.thephuketnews.com/vet-chula-soi-dog-partner-up-to-research-new-method-of-dog-contraception-82104.php