野生動物を嗅覚で守る犬たち
犬の嗅覚を使った仕事と言えば麻薬や爆発物探知犬、遭難した人を探知するレスキュー犬が代表的です。
それらの探索技術を応用して、自然環境の中で絶滅危惧種の植物を探し出したり、動物の足跡や排泄物から生息地域を特定するために働いている犬たちがいます。
アメリカで設立されたWorking Dogs for Conservation(WD4C)は、そのような自然環境保全のために犬をトレーニングして活動している非営利団体です。
WD4Cと犬たちの活動は世界中に広がり、犬たちは環境を破壊する外来種の探索、絶滅危惧種の生息地保護のための探索、銃弾や火薬の匂いから密猟者の探知など幅広い活躍を見せています。
米国ワイオミング州のヘラジカを保護する犬
WD4Cに所属する犬の1頭フロストが現在働いているのはアメリカのワイオミング州のヘラジカの生息地です。
この地のヘラジカに脱毛症が多く見られ、それがどの程度これら野生動物の健康に影響を及ぼしているのかが調査されています。脱毛症の原因はダニだと考えられています。
しかし、ダニは自然の中にいる生き物で野生動物は何世紀にも渡ってダニも含めた環境の中で生きて来ています。それがなぜ調査が必要な事態に陥っているのか、その理由は気候変動で冬の気温が高くなりダニの生息期間が伸びていること、ダニの個体数が増えていることだと推測されています。
WD4Cの犬は研究者と共にヘラジカの住む環境の調査のために働いています。
ヘラジカを悩ませるダニを犬が探知
WD4Cの探知犬の1頭雑種犬のフロストが最近マスターしたのは、ヘラジカを悩ませるダニの探知です。フロストは普段はワイオミング州での外来種の植物や昆虫の探知をしています。
ダニは枯れた植物の先端付近に100〜200匹がボールのように固まってくっついています。ちょうどヘラジカが歩く時の腹の辺りの高さの草に付き、ヘラジカが通りかかると体にくっついて寄生します。
フロストは植物の先端にダニが固まっていることを学習して知っており、植物に鼻をくっつけなくても離れたところからダニのニオイを感知してハンドラーに知らせることができます。そのためフロスト自身がダニに噛まれることはありません。
ダニは元々この地に住んでいる生物なので根絶させることはできませんが、どの地域にどのくらいの範囲で問題が起こっているのかを知ることが野生動物の保護の第一歩です。フロストのような探知犬はその大きな役割を担っています。
まとめ
自然環境保全のために働く犬たち、その中でも気候変動で数が増えてしまったダニを探知する犬についてご紹介しました。
密猟のような直接的な犯罪は言うまでもなく、外来種の侵入や気候変動などは多くの人が意識しないで引き起こしてしまった自然環境の破壊です。
それを保全する仕事を犬に手伝ってもらっていると考えると、人類は有史以前から未来にかけても犬には頭が上がらないと思わせられます。
《参考URL》
https://wd4c.org
https://www.wyomingpublicmedia.org/open-spaces/2021-11-19/working-dogs-learn-new-tricks-in-search-of-ticks