犬から飼い主に電話をかけるというアイデア
近年、留守番をするペットを見守るためのカメラは大きな進化を遂げて、見守るだけでなく声をかけたり、リモートでトリーツを投げ与えることまでできるようになっています。
しかし、これらのツールを操作するのは常に人間であり、留守番中の犬や猫は飼い主の声や与えられるトリーツに対して受け身でいることしかできません。
この度イギリスのグラスゴー大学とフィンランドのアアルト大学のコンピューター科学の研究者が、犬の方から操作して飼い主とビデオ通話ができるツールを考案し、現在開発中であると発表されて話題を集めています。
犬がどうやって通話機器を操作するのでしょうか?
おもちゃの中にセットされたドッグフォン
この研究とデバイス開発に携わっているのは研究者の愛犬である10歳のブラックラブラドールのザックです。研究者といっしょに合計16回の研究日に出勤して試作品の開発に協力しています。研究者はこのデバイスをドッグフォンと名付けました。
通話発信のための小型デバイスは、ザックのお気に入りのおもちゃの中に埋め込まれます。
デバイスには動作感知機がセットされており、犬がおもちゃを咥えて動きが感知されると発信されます。通話が接続されると設置されたモニターに飼い主の顔が映り、犬と人間がコミュニケーションを取ることができます。
ビデオ通話が採用されたのは、過去の研究から多くの犬がテレビ画面の映像に興味を示すことが分かっているからです。
最初の試作品ではザックがおもちゃの上で寝てしまっただけで通話が発信されて、システムの感度が高過ぎたことが分かりました。
ザックがおもちゃで遊んでいる時に発信された通話では、モニターに飼い主の顔が映るとザックはおもちゃを持って来て「遊ぼう」と誘う行動を示したり、画面に近づいたりしてコミュニケーションを取ろうとしました。
飼い主が自分の顔以外に、その時の周囲の風景(オフィス、駅、レストランなど)を見せるとザックは耳を動かして画面に近づき興味を示しました。
犬のザックは意図して電話をかけているのか?
実験期間の7日間で、動作感知器の感度は調整改善され、ザックは平均して1日5回の発信を行いました。その多くは偶然の結果のように見え、研究者自身も「ザックがおもちゃを咥えることと通話が始まることの因果関係に気づいているかどうかは不明です」と述べています。
しかし、ザックがモニター画面に映し出されたものに確実に興味を示したことと、実際に一緒にいる時と同じ行動を示したことから、犬の方から制御できる通信を開発することの意義があるとしています。そのため今後もドッグフォンの改良研究が続けられる模様です。
ドッグフォンには飼い主側からも電話をかけることができるのですが、この機能には予期せぬ副作用があったと研究者が語っています。
それは電話をかけた時にザックがモニターの前にいなかったり、無反応だった時に不安になってしまうことだそうです。愛犬と暮らす人にはその気持ちはとてもよく分かりますね。
まとめ
留守番中の犬の方から発信できるドッグフォンの試作品についての発表をご紹介しました。研究者はこれを「犬のためのインターネット」と呼んでおり、動物とコンピューターの相互作用の研究は今後も続けられていくそうです。
この研究は犬の分離不安への対策の1つとしても考えられており、テクノロジーが犬の福祉の改善につながる可能性も示しています。
愛犬から連絡があるかもしれないと思うと外出先でもソワソワしてしまいそうですが、今後の研究結果が楽しみでもあります。
《参考URL》
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3488539