高まりつつあるベジタリアンドッグフードへの関心
この数年、ドッグフードのカテゴリーに「ベジタリアン」「植物ベース」というものが増えて来ています。
かつてはトウモロコシや小麦など植物性の材料をメインにしたフードは、安価ではあるが犬の食性にふさわしくないという、あまり良いイメージのないものでした。
しかし、近年のベジタリアンフードはいわゆるプレミアムフードと呼ばれる価格帯で、様々な健康上のメリットもうたわれています。
ベジタリアンフードに関心を持つ飼い主の多くは、愛犬の健康の他に環境への影響や動物製品を消費することへの懸念も持っていることも、植物ベースのフードへの需要が高まっている理由です。
しかし、そのような植物ベースのフードが犬の身体に及ぼす影響も調査する必要があります。
この度ドイツのハノーバー獣医学大学動物栄養研究所の研究チームが、ベジタリアンフードと従来の動物性タンパク質ベースのドライフードの消化性と排泄された便の質、窒素排出量について調査した結果を発表しました。
消化性と便の質は犬への影響を調べるためですが、犬の便中に排出される窒素はウンチが回収されないで放置された場合に土壌、大気、河川の汚染という環境問題を引き起こすため、この研究での測定の対象とされました。
条件を揃えた植物性と動物性のフードで実験開始
研究のための給餌実験には6頭のメスのビーグルが参加しました。年齢の中央値は3歳で全頭が不妊化されていません。
犬たちは実験開始前に健康チェックとワクチン接種、駆虫処理を受けており完全に健康です。十分な広さのある犬舎が個別に与えられ、毎日屋外の運動場で一緒に遊ぶ時間も設けられる環境で飼育されています。
実験に使われるフードは市販の製品ではなく、研究のために作られたものです。植物ベースのフードの原材料は小麦、米、小麦グルテン、米タンパク、亜麻仁、ビートパルプ、醸造用酵母、ヒマワリ油です。
動物ベースのフードの原材料は小麦、米、家禽ミール(家禽の肉や内臓を加熱して油脂を搾った後に挽いて乾燥したもの)家禽脂肪、亜麻仁、ビートパルプ、醸造用酵母です。
どちらのフードにも嗜好性を高めるための調味料が同じだけ添加され、成犬に必要なビタミンミネラル類も添加された総合栄養食のドライフードとなっています。調理温度も同じに設定され、同じ技術で作られました。
犬たちは2つのグループに分けられ、12日間植物性または動物性のフードを食べた後、次の12日間は最初に食べたのと反対のフードを与えられました。
12日間のうち最初の6日はそれぞれのフードへの適応期間として取られており、後半6日間の便が回収されて分析されました。
それぞれのフードを食べた犬のウンチの違いは?
6頭の犬たちは皆同じように植物性と動物性のフードを与えられ、拒絶反応を示した犬はいませんでした。摂取量も2種類のフードでほぼ同じで、犬たちはどちらのフードもしっかりと食べたようです。24日間の研究中に犬たちの体重の変化もなかったということです。
回収した便を分析した結果、両方のフードで有機物、粗タンパク、粗脂肪の見かけの消化率に有意な違いは見られませんでした。
「見かけの消化率」とは、食べ物を摂取した時に便の中に排泄された栄養素の量を差し引き、食べたものに含まれていた栄養素の量で割った値を100倍したものを指します。厳密に言うと便に含まれる栄養素にはその時食べたもの以外から来たものも含まれるため「見かけの」と呼ばれます。
犬の便に排出された窒素の量は、植物ベースのフードの方がわずかに多かったが有意な違いではありませんでした。
犬の便の質は、1日の排泄回数、固さ、形、重量、内容物、ph値などがそれぞれにスコア化されて評価されます。
排泄回数は植物性の方がわずかに多いものの、有意な違いではありませんでした。便の固さと形はどちらのフードでも「望ましい最適スコア」に非常に近いもので、食べたフードの量に対しての便の重量も2つのフードでほぼ同じ。便サンプル採取期間の開始時と終了時のph値の差は両方のグループで同等でした。
この研究では、植物性と動物性のフードを与えられた犬の健康に大きな違いは見られませんでした。
過去の別の研究では、植物性タンパク質が食物繊維を多く含むものの場合に便の量と排泄回数増加、大豆タンパクを使用した場合に便の水分増加、100%牛肉タンパクを使用した場合に、便が非常に固くなったことが報告されているそうです。
今回の給餌実験に使われたフードはタンパク質の含有量が中程度であったことが、便の水分に影響を与えなかったと推定されています。
研究者はこの結果について、犬が植物ベースの食事で健康に生きることは可能であると締めくくっています。
まとめ
植物性のフードと動物性のフードを犬に与えて便サンプルを分析した結果、消化率、窒素排出量、便のクオリティはほぼ同じであったという研究結果をご紹介しました。
植物性と一口に言っても色々な種類の原材料があり、ドッグフードに加工された状態でのタンパク含有量も違い、また長期的な視点での影響は、さらに研究が必要だと思われます。しかし、適切に計算され製造された植物性のフードで犬が健康に生きることは不可能ではないようです。
犬に植物性フードを与えることは可哀想だというのも理解できるのですが、現代の畜産が環境の与えているインパクトや、魚介類など海洋資源の減少を考えると、人間も犬も植物性の食べ物で生きることについて、研究して最適解を見つけておくことは非常に重要です。
「犬にベジタリアンなんて!」と拒否反応を示すだけでなく、知識を持っておくことが大切ですね。
《参考URL》
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0257364