留守番中の犬の分離不安
犬を家の中に残して外出する時にひどく吠えたり、普段はしないトイレの失敗をしたり、ドアや家具などを破壊してしまうような行動は分離不安から来ると考えられます。分離不安とは動物が群れの仲間から離れた時にパニックになった状態です。
犬の祖先は野生の中で群れで生活しており、仲間と一緒にいることのメリットを活かして生き残って来たので、犬が飼い主と離れて単独になった時に不安を感じるのは、本来は生きるために必要な感覚です。
しかし、パニックの状態が度を越すと怪我をしたり脱走につながるため、飼い主は対策を考えなくてはなりません。多くの飼い主さんが思いつくのは「もう一匹増やせば犬同士で遊べて寂しくなくなるのでは?」というアイデアです。
複数の犬を飼うことは、犬の分離不安を解消するのに役に立つのでしょうか?この疑問への答えとなる比較観察の結果が、スイスの動物自然療法アカデミーとドイツの認知行動学研究所の研究チームによって発表されました。
多頭飼育の犬と単独飼育の犬の留守番時の行動を比較した結果はどのようなものだったのでしょうか。
留守番中の犬の行動を録画して観察
研究に参加したのは「定期的に犬が留守番をする」という条件で一般募集された飼い主と家庭犬達です。参加した飼い主は3台のカメラを受け取り、留守番中に犬が長い時間を過ごすと思われる場所に設置して留守中の行動を録画するよう支持されました。
そうして54世帯の参加者から、単独で飼われている犬32頭、複数で飼われている犬45頭の録画ビデオが提出され、飼い主は、犬の全般的な行動と分離に関連する行動についての質問票にも記入回答が求められました。
録画内容から、犬の発声行動(吠える、キュウキュウ鳴く、遠吠えなど)と身体活動(歩き回る、部屋を移動するなど)についての統計と分析が行われ、全てのビデオにおいて家具などの破壊行動やトイレの粗相などは見られず、長時間に渡る発声行動はごく少数でした。
多頭飼育と単独飼育を比較するとはっきりした違いが
上記のように、参加した世帯の犬たちには深刻な分離不安の症状は見られなかったのですが、分離不安につながる可能性のある行動について比較すると、多頭飼育と単独飼育の犬には有意な違いが見つかりました。
犬が歩いたり走り回ったりする身体活動は、多頭飼育の犬が全録画時間の26〜27%で単独飼育の犬は14〜15%でした。これら身体活動の違いは飼い主が家を離れた直後の1時間においてより顕著でした。多頭飼育の犬の身体活動について他の犬との相互の関わり合いはごくわずかでした。
また、多頭飼育の犬(特にオス犬)では発声行動もより高い割合で見られました。吠える行動と遠吠えが特に多く、キュウキュウ鳴く行動は多頭でも単独でも大きな違いがありませんでした。
性別の違いでは、雄犬は出入り口のドアの側にとどまる傾向が強く見られました。この偏りは性別によるものとも考えられますが、多頭飼育の犬では留守番の時間が長くなるほどドアの側にいる傾向が強くなりました。
また、不妊化手術をしているか否かは分離不安に関連する行動への違いを示していませんでした。
これらの結果を踏まえて研究者は、単独飼育の犬は留守番中のリラックスした時間がより長く発声行動はより少ないため、同種の仲間が分離ストレスへの対処を助けるという見解は支持できないとしています。
さらに研究が必要ですが、この研究でのデータは多頭飼育は分離不安にとって逆効果であることを示していたようです。
まとめ
複数の犬を飼っている家庭と1頭だけを飼っている家庭の留守番中の犬の行動を観察した結果、多頭飼育の家庭の犬の方が分離不安に関連する行動がより多く見られたという研究結果をご紹介しました。
少し意外な感じもしますが、研究者は「他の犬が一緒にいることで助けられる部分があることは否定しないが、犬同士が不安感情に影響を受けたり、その結果興奮性の行動を示す結果になることがあります」とも述べています。
犬が分離不安に関連する行動を見せている場合、他の犬を連れてくるだけでは根本的な問題解決にはならないということですね。犬がなぜそのような行動をするのかを理解して対策を立てることが重要です。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0168159121002501#sec0075