小型犬に多く発症する遺伝性疾患
脳の中には、脳室と呼ばれている空間がいくつか存在しています。そして、脳室は常に一定量の脳脊髄液で満たされているのが正常な状態です。
この脳室を満たしている脳脊髄液が何らかの理由により過剰に溜まってしまうことで脳室が大きくなってしまい、脳を圧迫する病気が「水頭症」です。
水頭症には先天性のものと後天性のものがありますが、先天性の割合が非常に多く、よく知られている遺伝性疾患の一つです。
好発する犬種は、チワワ、ミニチュアダックスフンド、トイプードル、ポメラニアン、マルチーズ、ボストンテリア、シーズー、ヨークシャーテリアなどの小型犬です。
脳と一言で言っても、その部位によってさまざまな役割があるため、大きくなった脳室が脳のどの部分を圧迫するかによって、現れる症状も異なります。
犬の水頭症の症状
1.大脳皮質が圧迫される場合に見られる症状
哺乳類の大脳半球全体の表面を覆っている、脳の外側の灰白質部分を大脳皮質といいます。ここは、感情や感覚、記憶、嗜好などの精神機能を司る部分です。
そのため、過剰な脳脊髄液が大脳皮質を圧迫する部分の脳室に溜まると、周囲の出来事に興味を示さなくなるという症状が現れます。
具体的にいうと、ぼーっとしている、痴呆症のような症状が出る、感覚が鈍くなる、体が麻痺する、動作が緩慢になるなどといった症状です。
2.大脳辺縁系が圧迫される場合に見られる症状
大脳の内、大脳皮質の内側の部分を大脳辺縁系といいます。この部分は、記憶、喜怒哀楽などの感情、特定の行動を起こさせるスイッチのような動因、嗅覚などに関連する処理や、体内の恒常性を調整する役割を担っています。
そのため、脳室が大脳辺縁系を圧迫すると、性行動に変化が見られる、異常な攻撃性を見せるなどの性格が変わったようになる、トレーニングをしてもなかなか覚えられなくなるなどの症状や、けいれん発作、強迫神経症のような症状が現れます。
3.視床下部が圧迫される場合に見られる症状
視床下部は間脳の一部で、体が意識とは独立して機能するために働く自律神経を司る中枢器官です。
内臓機能や内分泌機能などの体の自立機能を統御する役割のため、視床下部が圧迫されることで、ホルモンの分泌異常が生じたり、過食や食欲減退などの諸症状が現れます。
4.小脳が圧迫される場合に見られる症状
大脳の下にあり、脳の中では大脳についで2番目に大きい脳が小脳です。ここは、姿勢を維持したり、運動に関する調整を司っている部分です。
そのため小脳が圧迫されると、運動系統に異常が生じ、おかしな歩き方になる、よく転ぶようになる、うまく立ち上がれなくなるといった症状が現れます。
5.外見に表れる症状
最後に、外見に表れる顕著な症状をご紹介します。水頭症は、溜まった脳脊髄液で脳内の脳室が大きくなる病気なので、頭部がドームのように膨らむといった特徴的な症状が現れます。アップルヘッドという場合もあります。
また眼が外側の下方向を向く、外腹側斜視といった症状も現れるため、これまでご紹介してきた行動や性格の変化などの症状と合わせて、外見の症状からも水頭症であることを判断できます。
犬の水頭症の原因と予防法
既に書いてきた通り、水頭症には先天性のものと後天性のものがあります。
先天性の場合の原因は、遺伝性疾患である場合の他に、出生前のウイルス感染や他の要因による発育不全で起こると考えられています。
後天性の場合の原因は、事故等による頭部の外傷やウイルス感染による脳炎、脳腫瘍などによる脳内出血や、髄膜炎などによる脳脊髄液の循環経路が塞がれてしまう、または脳脊髄液の分泌が過剰になってしまうことが原因だと考えられています。
後天性の場合は、事故や病気の予防をすることがそのまま水頭症の予防にも繋がりますが、犬の水頭症は先天性の割合が非常に多いため、基本的には予防法がありません。
日頃から愛犬の様子をよく観察し、しっかりとコミュニケーションを図る中で病気を早期に発見し、早期に治療を開始することが、何よりの予防法だと考えてください。
犬の水頭症の診断
犬の水頭症を診断するためには、各種の検査が必要です。最も簡単にできる検査がエコー検査です。
しかし、最も正確な方法は、CT検査またはMRI検査です。特にMRI検査の場合は、水頭症の有無と同時に他の原因の有無も調べることができます。
ただし、MRI検査には全身麻酔が必要である等、犬の身体に負担がかかります。獣医師とよく相談して検査方法を決めてください。
なお正常な脳は、脳全体の大きさと比べて脳室が10%程度です。脳室の大きさが20%程度の場合は中程度の水頭症、35%以上の場合は重度の水頭症だといえるでしょう。
まとめ
水頭症の治療には、内科的治療と外科的治療があり、その犬の症状や状態、飼い主さんのご要望などにより治療法が決められます。
いずれにしろ、早期に発見して早期に治療を開始することで、症状を緩和したり延命したりすることができますので、特に小型犬と一緒に暮らしている飼い主さんは、愛犬の普段の行動をよく観察し、気になる点がある場合はかかりつけの動物病院で診てもらうようにしてください。