オオカミは犬の祖先と言うけれど
オオカミは犬の遠い祖先であるというのは常識のようになっています。しかし様々な研究から、現在世界中にいる犬たちの祖先であるオオカミは、現代の野生のオオカミとは違う系統のイヌ科動物で、その系統は絶滅したのではないかと考えられています。
しかしこの度、日本の総合研究大学院大学の進化生物学の研究者は、ニホンオオカミと呼ばれるイヌ科動物がこれまでに見つかった他のどのオオカミよりも犬と密接に関連している可能性を発表しました。
ニホンオオカミのゲノムを配列決定
ニホンオオカミは現代人がオオカミと聞いてイメージするハイイロオオカミよりも小型の亜種で、100〜120年前に絶滅しました。日本とヨーロッパの博物館にはニホンオオカミの標本がいくつか保存されています。
研究チームは保存されている9体の標本のゲノムを配列決定し、柴犬を含む現代の日本犬11匹のゲノムも配列決定しました。さらにこれらのデータを、キツネ、コヨーテ、ディンゴ、現代のオオカミ、犬と比較しました。
比較の結果から、ニホンオオカミは2万年〜4万年前に発生したオオカミの進化の枝の一部であることが発見されました。
この枝に含まれたオオカミのいくつかがニホンオオカミに進化したのですが、枝分かれした他の枝のオオカミは現代の犬を生み出したと考えられます。
これまで犬の家畜化発生の地は中東やヨーロッパが候補に上がっていましたが、この結果は東アジアがオオカミと犬の分岐点であり、犬の直接の祖先にあたるオオカミが住んでいた場所である可能性を示しています。
しかし、犬の祖先にあたるオオカミが東アジアに住んでいたとしても、それは必ずしも犬の家畜化が東アジアで始まったことを意味するわけではありません。犬の家畜化についてはゲノムデータから判断することはできません。これはまた別の考古学的な研究が必要です。
犬の発生の歴史を探るためにさらに深い研究
様々なイヌ科動物とニホンオオカミのゲノムの比較から、ディンゴ、ニューギニアシンギングドッグ、日本固有の犬種など東ユーラシアの犬のゲノムの最大5.5%がニホンオオカミと共通していました。
一方、ラブラドールやジャーマンシェパードなど西洋の犬は、ニホンオオカミと共通するDNAははるかに少ないものでした。
これらのことからニホンオオカミの祖先は東に移動する初期の犬と交配して、その血統を現代の東ユーラシアの犬が受け継いで来たと考えられます。
犬が発生したのが東アジアだったかどうかを確認するため、研究者は東アジア地域で発見された古代のオオカミの骨からDNAを抽出して比較したいと考えているそうです。
まとめ
博物館に保存されているニホンオオカミの標本のゲノムを配列決定して他のイヌ科動物と比較したところ、ニホンオオカミは現代の犬に最も密接に関連していたという発見についてご紹介しました。
「犬の祖先はオオカミ」と言う、そのオオカミが日本のオオカミだったというのは日本人としてなんとなく嬉しくなる感じがします。
そのニホンオオカミが約1世紀前というごく近い昔に絶滅してしまったというのはとても残念なことですが、東アジアにおける犬の発生や家畜化の歴史など、今後さらに興味深い研究の成果が明らかになって行きそうです。
《参考URL》
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.10.10.463851v3