犬にもADHDのような行動がある?
ADHDは正式には注意欠如・多動症と言い、神経発達症群の1つです。
ADHDの構成要素は多動性/衝動性の高さと注意の欠如ですが、これらは一部の犬にも顕著に見られるものです。
この度フィンランドのヘルシンキ大学の獣医生物化学、および遺伝医学の研究者チームが、犬のADHDに似た行動について大規模な調査を行いその結果が発表されました。
通常のドッグトレーニングでは効果のなかった、行動上の問題などの解決にもつながる可能性のある研究結果をご紹介します。
1万1千匹以上の犬のデータから分析
データの収集はフィンランドの一般的な犬の飼い主を対象にしてオンラインアンケートの形で実施。
2015年2月から2018年9月までの3年6ヵ月をかけて約1万1千匹分のデータが集まりました。
アンケートの質問票には、恐怖、攻撃性、騒音感受性、床面や高さへの恐怖、多動性/衝動性、注意の欠如、分離不安、強迫行動などの行動特性に関する質問が含まれたそうです。
これらのうち多動性/衝動性と注意の欠如については、子どものADHDの評価尺度に基づいて質問が設定されました。
このようにして収集されたデータを集計し、人間のADHDのデータと比較分析したところ類似する点が数多く発見されたと言います。
犬のADHD研究から分かること、期待されること
犬の場合の多動性/衝動性や注意の欠如は、落ち着くことができない、注目することができない、キューや刺激に対しての反応が早すぎて目的の行動に失敗する、継続的に吠えたりキュンキュン鳴き続けるなどが含まれます。
集計の結果、これらの項目は若い犬とオス犬でより一般的で、これは人間のADHDの人口統計と一致しています。また、毎日一匹だけで留守番をしている犬は、飼い主とより多くの時間一緒にいる犬に比べて多動性/衝動性が高いことも分かりました。
ADHDに似た行動と強迫性行動、攻撃性、恐怖の間に関連性があることも分かりました。犬の強迫性行動は、尻尾を追いかけ続ける、床や自分の体を過度に舐め続ける、何も無い一点を見つめ続けるなどがあります。
人間の場合の強迫性行動は手洗いや戸締りの確認などを過度に行う、物事を決められた手順でないと進められないなどがありますが、ADHDの人は強迫性行動の問題を持っている可能性が高いとのことです。
犬とヒト両方の種でADHDに併存する同じタイプの症状があることは、これらの行動特性に共有される神経生物学的な経路があるという仮説を強化しているとのことです。
集計分析の結果は、これらの行動特性には遺伝的な傾向が強いことも示していました。犬の多動性/衝動性および注意の欠如に影響を与える要因を理解することは、犬のためだけでなく人間のADHD研究にも役立つ可能性が期待されます。
まとめ
大規模なアンケート調査の分析の結果、犬がADHDに似た行動を示し、それらの背景にある要因が人間のADHDと共通する点が多いことが分かったという研究結果をご紹介しました。
犬と人間に共通する症状の研究では「人間の役に立つ可能性」が大きく取り上げられることが多いのですが、一般の飼い主としては「うちの犬はADHDに似た傾向がある」と思った時に、人間のADHDの対策を知ることが助けになることがあるかもしれません。
このような研究がさらに進むことで、一般的なトレーニングの効果が見られないと悩む飼い主さんに新しい道が開けると考えられます。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41398-021-01626-x