犬の攻撃的な行動と、飼い主と犬の性格
犬が攻撃的な行動を示すことには、環境など外的な要因と性格など内的な要因がさまざまに絡み合っています。それらの要因の1つ1つをよく知ることが、犬の攻撃性の予防と管理につなげられる可能性があります。
犬の攻撃的な行動には犬自身の性格特性はもちろん、飼い主の性格特性、さらに犬と人間の感情的なつながりも関連しているのではないかという調査が、スロバキアのリュブリャナ大学生物工学部畜産学科の研究者によって行われ発表されています。
一般的な家庭犬と飼い主を対象に調査
この研究には、SNSや犬種クラブを通じて募集された40頭の犬とその飼い主が参加しました。犬たちは全員が1歳以上で、雑種を含めて様々な犬種がいました。
飼い主はそれぞれ飼い犬の過去の攻撃性の履歴について調査アンケートに答え、犬たちは「攻撃歴なし」「人に対して攻撃歴あり」「動物に対して攻撃歴あり」の3つに分けられました。
犬たちは全員が、設置されたテストエリアで9種類の行動テストを受け、その結果から性格特性が決定されました。
テストの内容は、見知らぬ人が近づいた時の社交性、他の犬が近づいた時の行動、見慣れない物体を見た時の行動、変な格好をした人がいた時の行動、飼い主とおもちゃで遊ぶ時の行動、飼い主の後を追いかける行動などで、それぞれ5段階で評価されました。
飼い主の性格特性は、心理学で使われるビッグファイブ性格特性の質問票によって測定されました。外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性の5つの要素に基づいた、性格についての記述に自分が当てはまるかどうかを5段階で評価するというものです。
また、飼い主から犬への愛着スタイルを評価する質問票も記入されました。これは飼い主の愛着スタイルが不安型、または回避型に当てはまるかどうかを評価するものでした。
不安型愛着とは、犬との強い絆を望んでいるがそれが達成されているかどうか不安を強く持っているタイプです。回避型愛着とは、親密な愛着を避け依存されることを好まないタイプです。
飼い主の性格、犬の性格、犬の行動は関連している
犬の行動テストと飼い主への一連の質問票への回答を照合分析すると、犬の攻撃的な行動と犬と人それぞれの性格特性には、明らかな関連性が示されました。
行動テストから判断された犬の性格特性のうち、有意な差が見られたのは社交性でした。過去に攻撃的な行動の履歴のない犬のグループは、攻撃履歴のある2グループよりも高い社交性を示しました。
行動テストの中で見られた行動のうち、攻撃性に関連するのは「見知らぬ人に対する攻撃性」「飼い主に対する攻撃性」「他の犬に対する攻撃性」「追跡行動」ですが、攻撃履歴のある2グループは履歴のないグループに比べて、見知らぬ人と他の犬への攻撃性、追跡行動のスコアがかなり高くなっていました。
飼い主の性格では、人間に対して攻撃履歴のある犬の飼い主は、神経症傾向のスコアが高かったことがわかりました。神経症傾向とは落ち込みやすい、情緒的に不安定、ストレスを感じやすいなどを指します。
犬への愛着スタイルでは、不安型愛着のスコアが高い飼い主の犬は、見知らぬ人に対する攻撃性が低く、社交性と追跡行動のスコアが低いことがわかりました。回避型愛着のスコアが高い飼い主の犬は、飼い主に対する攻撃性のスコアが高くなっていました。
まとめ
飼い主への質問と犬の行動テストを組み合わせて、人と犬の性格特性と犬の攻撃的な行動との関連を調査した結果をご紹介しました。
社交性の高い犬は、攻撃的な行動が少ないというのは以前から多く言われていることで、犬の社会化の重要性が改めて認識されます。
犬の攻撃的な行動のほとんどは、犬が恐怖やストレスを感じた結果だという研究もありますが、飼い主がストレスを感じやすく情緒的に不安定な場合にも、攻撃性につながりやすいというのは、飼い主の感情が犬に伝わっていることを示しているようですね。
犬への愛着行動では、たとえ「犬も自分のことを愛してくれているだろうか?」と不安になってしまっても飼い主が犬に強い愛着や絆を感じていることが、犬の穏やかな行動に関連しているようです。犬への愛着を回避してしまうと、飼い主への攻撃的行動につながってしまうのは悲しい結果です。
性格というのは一朝一夕に変えられるものではありませんが、少なくとも愛犬に負担をかけない心持ちを保つよう意識しなくてはと考えさせられました。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/10/2/315/htm