犬は人間の表情を読んで自分の行動を決定しているという研究結果

犬は人間の表情を読んで自分の行動を決定しているという研究結果

犬は人間の行動をよく見ています。新しい研究では、犬は人間の顔の表情を読んで次にどのような行動をするかの意思決定をすることができると報告されました。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

犬は人間の表情を読み取って自分の行動を決定することができるのだろうか?

チワワと笑顔の男性

犬が人間の行動や表情をよく観察して何かを理解、記憶していることは、犬と暮らしている人ならおなじみの事柄です。しかし、声や動作などの手がかり抜きで見知らぬ人の顔の表情だけを読み取れるのでしょうか?また、読み取った表情を自分の行動を決定するための判断材料にすることができるのでしょうか?

これまで、他者の表情を区別し、その意味するところを理解し、それを判断材料として過去の経験や記憶から自分がどう行動するかを考えて決定することができるのは、霊長類だけだと考えられてきました。

そこで今回、ブラジルのサンパウロ大学とイギリスのリンカーン大学の生命科学と心理学の研究者チームが、犬が人間の表情を読み取り、意思決定の判断材料にしているのかどうかを知るための面白い実験を行い、その結果が報告されました。

馴染みのない人の表情を見た犬がどんな行動をするかという実験

一点を見つめる犬

実験では91頭の家庭犬の行動が観察、分析されました。実験室には小さいテーブルと2脚の椅子がセットされ、犬はそこから2m離れた位置に飼い主と一緒にいます。

それぞれの椅子に犬が全く馴染みのない人が座ります。2人はどちらも白人女性で同じ年齢、同じ髪型、同じ服を着ています。この人たちは俳優で、要求された表情を声を出さずにいつも同じように演じることができるようにトレーニングされています。

テーブルの上には3枚の黒いディスクが置いてあり、2人がそれを受け渡しします。黒いディスクは、何の意味も持たない物として用意され、2人がそれを受け渡しすることで、1人には物を与える側、もう1人には物をもらう側という役割を与えることになります。

実験中、2人のうち決まった1人が、もう1人に黒いディスクを1枚ずつ手渡します。受け取った人は、そのディスクを見て「嬉しい表情」「中立(無表情)」「怒りの表情」を演じます。渡す人は常に無表情です。犬は、これが3回繰り返されるのを観察します。

犬たちがそれぞれ、「嬉しい」「中立」「怒り」のどの表情を見るのかはランダムに分けられました。ディスク受け渡しの観察の後、トリーツが用意された状態で犬は自由にされ、俳優にもアプローチすることが可能になります。トリーツをどのように用意するかは、2種類のパターンに分けられました。

1つは2人の俳優がそれぞれの手にトリーツ入りのボウルを持ち、犬が自力でトリーツにありつける位置で構えた状態。もう1つはテーブルの上にトリーツ入りのボウル2つ重ねて置き、犬がトリーツにありつくためにはどちらかの人に助けを求める必要がある状態です。

さて、犬たちはそれぞれどんな反応を示したでしょうか?

犬たちが取った行動と、そこからわかること

2つの表情の女性の顔

犬たちが取った行動にはとても明らかな差がありました。犬たちがボウルを持っている2人のうち、どちらの人に近づいたか、またはどちらの人にも近づかなかったかを観察した結果は以下の通りでした。

犬たちがどちらの人にも近づかなかったパターンは「怒りの表情」の場合が一番多く、42%がどちらにも近づきませんでした。中立バージョンでは35%、「嬉しい表情」では7%だけがどちらの人にも近づかず、大きな差が見られました。

どちらかの人に近づいた犬たちの選択は次のようなものでした。「嬉しい表情」バージョンでは、無表情でディスクを渡した人に近づいた犬は32%、嬉しい表情でディスクを受け取った人に近づいた犬は68%でした。

2人の俳優がどちらも無表情でディスクをやりとりした中立バージョンでは、ほぼ半々の結果でした。

「怒りの表情」バージョンでは、無表情でディスクを渡した人に近づいた犬は95%、怒りの表情でディスクを受け取った人に近づいた犬は5%でした。

また、犬が自力でトリーツにありつける状態とトリーツにありつくためには人に助けを求める必要がある状態を比べた場合、犬が自力でトリーツをありつける状態で、無表情でディスクを渡した人に近づいた犬がより多くいました。人に助けを求める必要はない状況では、「嬉しい表情」の俳優に近づいた犬は少なかったということです。

この実験の結果は、犬は馴染みのない人間の表情を区別してその意味を理解し、自分の意思決定のための判断材料に使用できることを示しています。

これはかなり複雑なスキルで、人間以外ではチンパンジーなど霊長類にしかできないと考えられていましたが、今回の研究によって、犬は種類の違う動物である人間が自分とは無関係な行動を起こしている最中の表情を読み取り、その後の自分の行動を決定する際の判断材料にすることができることを示している、と研究者たちは述べています。

まとめ

ゴールデンレトリーバー を囲む家族

犬が人間の顔の感情的な表現から情報を取得し、その情報を自分の意思決定に利用しているという研究の結果をご紹介しました。

日常生活の中で、家族同士が喧嘩をすると犬がオロオロしたり、泣いている子どもに寄り添ったりする例は多く見聞きされます。こうして犬が人の感情を読み取れること、それをもとに自分で行動を決めることがある可能性が科学的に示されることで、犬に笑顔で話しかけることや犬に向かっていたずらに怒りの感情を見せてはいけないこと重要性がよくわかると思います。

《紹介した研究》
Albuquerque, N., Mills, D.S., Guo, K. et al. Dogs can infer implicit information from human emotional expressions. Anim Cogn (2021).
https://doi.org/10.1007/s10071-021-01544-x

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