狩猟犬が吠えることの意味
犬にとって「吠える」という行動は、コミュニケーション手段の1つでもあります。以前の研究でも犬が吠えることで、人間に情報を提供できることが示されています。
犬は家畜化によって何万年にも渡って人間に協力してきたのはご存知の通りですが、人間と犬との共同作業の中でも最も歴史の古いものは狩猟です。しかし、狩猟活動中の犬の吠え行動についての研究はほとんどないそうです。
経験を積んだハンターは、犬の吠え方で見つかった動物の種類がわかると言われているそうです。この度チェコのチェコ生命科学大学の野生生物学の研究者が、狩猟犬が異なる動物種に遭遇した時の吠え声を分析比較した結果を発表しました。
2つの犬種が4つの動物種を見た時の吠える声を録音
実験に参加したのは19匹の犬で、ダックスフンド9匹、フォックステリア8匹、ウェルシュテリア1匹、ジャーマンテリア1匹でした。
ダックスフンドとテリアに限定したのは、彼らはポインティングやレトリーブと言った特定の行動に特化した猟犬ではなく、動物を探し足跡をたどり追いかけて吠えるという総合的な役割を持つ猟犬だからです。犬の飼い主は研究者とその同僚達です。
犬たちが対面する動物は、イノシシ、アカギツネ、ウサギ、ニワトリの4種で、全て人間に飼育されている個体です。対面は全ての動物の安全を確保するために、屋外のフェンス越しに実行されました。動物同士の接触は全くありません。
フェンス越しにそれぞれの動物と対面した時の犬の吠え声が録音されました。19匹の犬は4種の動物のどれかにランダムに割り当てられ、対面は1匹ずつ行われ、各セッションは5〜15分でした。
4種の動物は犬にとっての危険レベルがそれぞれ異なっているのですが、それぞれに犬の吠え方に違いがあるのか、あるとすればどのような違いで、その理由は何なのかが分析検討されました。
どうして遭遇した動物によって吠える声が違うのか?
録音された犬の吠え声を比較分析すると、他と大きく違って特徴的だったのはイノシシと対面した時でした。イノシシはこの4種の中で犬にとって最も危険な動物です。
犬にとって2番目に危険なアカギツネと対面した時の吠え声は、意外なことにウサギや鶏と対面した時とほとんど変わりませんでした。犬の吠え声がイノシシと他の3種という分類で違うということから、相対する動物の体のサイズが重要な要素である可能性を示しています。
イノシシと対面中の犬の吠え声は、他の3つに比べて著しく低い周波数を示していました。また、犬が吠えている時間もイノシシとの対面中が最も長くなっていました。これらは犬が危険を感じたことから覚醒度が高くなったことを示しています。
研究者は犬の吠える声が遭遇した動物によってその特徴が変わるのは、飼い主に何かを伝えるというような機能的な情報ではなく、犬の内部の状態を表した結果であるように思うと述べています。
この危険な動物種に遭遇した時に発する特有の吠え声は、狩猟の成果を高めると考えられた結果、テリアやダックスフンドのような犬種はその声によって選択されて来たとも考えられます。
まとめ
ダックスフンドとテリアを対象にして、イノシシ、アカギツネ、ウサギ、ニワトリと対峙した時の犬の吠え声を比較分析したところ、危険度の高いイノシシの時に周波数の低い特徴的な声で長い時間吠えたという結果をご紹介しました。
この調査の結果は一般的な飼い主にはあまり馴染みのないものかもしれません。しかし、ダックスフンドとテリアと言えば日本でも家庭犬として人気の犬種です。狩猟犬として選択されて来た犬種の歴史を考えると、元々はよく吠えることが望ましいとして育種された犬であることがよく分かります。
家族として迎える前に犬種としての特徴をよく知るということの意味を知らされる調査結果とも言えるかもしれません。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-97002-2