犬の寄生虫の1つ、犬鉤虫
鉤虫(こうちゅう)は犬が感染する寄生虫の中では比較的一般的なものです。犬に感染する犬鉤虫と猫に感染する猫鉤虫がいます。
屋内で飼育されている家庭犬が感染するリスクは低いものですが、子犬は感染リスクが高いため家庭に迎える前の飼育状況によっては注意が必要です。
犬鉤虫の駆虫には現在3種類の薬が使用されているのですが、犬鉤虫の感染状況とこれらの薬についてアメリカのジョージア大学の獣医学の研究チームが調査を行い、その結果が発表されました。
レーシングドッグを対象にした調査
研究対象となったのはドッグレースに使われているレース犬たちです。現役のレース犬と引退して一般家庭に譲渡された犬の両方です。
ドッグレースのコースは砂地で犬鉤虫の生息に適していることと、犬たちは犬舎で集団生活をしていることから、レース犬たちは犬鉤虫感染の高いリスクに晒されています。そのため全ての犬は約3〜4週間ごとに駆虫薬の投与を受けています。
レース犬の犬舎、引退犬譲渡のための保護団体、動物病院の協力を得て犬たちの便サンプルを分析した結果、5頭に4頭は犬鉤虫感染について陽性を示すという驚きの蔓延ぶりが明らかになりました。
中でも研究者が憂慮したのは、駆虫薬を投与された後でも陽性のままだった犬が多数いたことでした。これは感染した犬がたくさん集まっている状況で寄生虫が突然変異を起こしたことと、頻繁に駆虫薬が投与される中で従来のタイプは死滅し、変異を起こした個体群だけが生き残り繁栄したためと考えられます。
研究チームは、変異を起こした鉤虫が現在使用されている3種類の薬全てに対して耐性を示したと報告しています。
一般の家庭犬が気をつけることは?
この調査結果を受けて米国獣医寄生虫学者協会は、犬鉤虫の薬剤耐性問題に取り組むための特別チームを結成しました。またジョージア大学の研究者は、この新しい変異種に対して効果があると考えられる駆虫剤を既に発見しているそうです。
このように対策はきちんと立てられていることと、レース犬という特殊な環境での飼育下の犬という状況から、日本の一般的な飼い主が過度に心配する必要はありません。
しかし、日本においても犬鉤虫感染はゼロというわけではありませんから、注意する点を知っておくことは大切です。鉤虫は地面の中に住んでおり、犬の足などについた卵が体を舐めることで経口感染する他、皮膚から入り込んで感染することもあります。
感染を予防するためには、他の犬の排泄物が多く放置されているような場所に行かないことが大切です。管理の悪いドッグランなどは犬鉤虫だけではないハイリスクエリアになります。また日頃からドッグベッドや毛布はこまめに洗濯して乾燥させることも大切です。
もし感染してしまった場合、駆虫薬を投与した後しばらくしてから体内に残っていた卵が孵化した場合に備えて再度投薬をします。獣医師から投薬の指示があれば「今症状がないからもういいだろう」と自己判断せずに、最後まで投薬を行うことが重要です。
まとめ
アメリカでの犬鉤虫の研究で、現在使用されている駆虫薬に対して耐性の高い個体群が出現していることが分かったという報告をご紹介しました。
今回は犬鉤虫でしたが、地球温暖化の影響でノミダニなどの生息期間は長くなり、生息地域も広くなっていると報告されています。その他の寄生虫についても犬鉤虫と同じことが起きても不思議ではありません。
愛犬の寄生虫について以前よりも注意が必要になっていることは確かなようです。そのためにも新しい情報があった時には耳を傾けておいたほうが良さそうですね。
《参考URL》
https://news.uga.edu/hookworms-are-developing-resistance-to-medications/
https://doi.org/10.1016/j.ijpddr.2021.08.005