公営の保護施設にもパンデミックの影響
アメリカでは市や郡など自治体が管理運営している動物保護施設があります。日本で言えば動物愛護センターに近いものです。ロサンゼルス市と近隣の市を含むロサンゼルス郡では、昨年から自治体が運営している保護施設に動物を持ち込む人々への対策に変更を加えました。
以前は施設の営業時間内であれば、いつでも動物を持ち込むことができ無条件に引き取っていたのですが、コロナ禍の影響で保護施設への訪問はどのような目的でも事前に予約が必要になったことから、ちょうど良い機会だとして新しい対策がスタートしました。
折しもパンデミックのせいで失業したり収入が減ってしまった人が増え、ペットの医療費や食糧費をまかなえない、引越しをしなくてはいけないが準備中のペットの預け先がないなどの理由での持ち込みが増えていたのも、新しい対策が始められた理由の1つでした。
ロサンゼルス郡の保護施設が始めた対策
新しい対策とは、一言で言えば「動物を無条件に引き取ることを止める」ということです。しかしそれは「説得する」「自分で引き取り先を探すように言う」といったものではありません。
施設の担当者は動物を持ち込んだ人に対して、引き取りを希望する理由を詳しく質問します。その理由が自治体が支援できるものかどうかを評価するためです。
自治体の支援とは具体的には次のようなものです。
- 医療費の一部負担
- ペットフード の支給
- フード以外の消耗品の支給
- ペットの一時預かり
- 行動上の問題のトレーニング支援
例えば、パンデミックの影響で失業したある犬の飼い主は、愛犬の耳の感染症の手術が必要だが約25万円の医療費全額を払えないため保護施設に相談したところ、必要な手続きを経て約5万円が自治体によって負担されました。
家賃が払えなくて引越しをする場合には新しい住居が決まるまでの間、犬や猫を保護施設で無料で預かってもらうこともできます。
公営の保護施設での引き取りは、本当に何も打つ手がないと言う最終手段にすることが新しい対策の狙いです。この対策をスタートさせた2020年のロサンゼルス郡の保護施設への犬猫等の持ち込みは2万5千頭を切りました。前年の数字は4万6千頭を超えていたので、大きな減少です。
猫の殺処分率は48%から31%に低下、譲渡や返還などで生きて施設を出る率は54%から68%に増加しました。犬は以前から安定しており、殺処分率は12%から11%に、生きて施設を出る率は以前と同じく88%となっています。
自治体の対策のしわ寄せが来ている面もある
カリフォルニア州全体では公営の動物保護施設の約半分がパンデミックをきっかけに、ロサンゼルス郡のような動物持ち込みの管理システムを採用しています。これらのシステムはカリフォルニア大学デイビス校のコレット・シェルター医学プログラムが協力しています。
犬猫の持ち込みが減り、殺処分も減少、生きて施設を出る犬や猫も増えてと良いことばかりのように見えますが、この新しい管理システムを批判する声もあります。
自治体に引き取りを拒否された動物はネグレクトされるのではないか、自治体が引き取らない分は近隣の民間の保護団体への負担が増えるだけではないかというものです。また民間保護団体は、自治体の施設で動物を引き取るか他の方法を勧めるかを決定するのが、動物の専門家ではない職員であることも懸念しています。
しかし自治体の支援のおかげで、愛犬や愛猫を手放さなくて済んだ人も確かにおり、殺処分が減ったことで自治体施設職員の心理的負担が少なくなったのも事実です。
カリフォルニア大学デイビス校の獣医師は「混み合った動物保護施設は、貧困や社会的不平等などより大きな問題の兆候である」と述べています。犬や猫の問題は社会の問題と密接に絡み合っていることが実感させられます。
まとめ
アメリカのロサンゼルス郡の公営動物保護施設で、動物の持ち込みを無条件に受け入れる代わりに様々な支援策を打ち出し、できる限り引き取りを減らす新しい対策を立てていること、そのメリットとデメリットをご紹介しました。
アメリカの動物をめぐる事情は決して理想的ではない面が多々あります。それだけに自治体と民間が苦労して打ち出している対策が参考になる点も多いかと思います。
日本の動物を取り巻く環境を良くするために、地元国会議員、知事、環境省などにアプローチする際、諸外国の具体例を知っておくと役に立つこともあります。どこの国であれ飼い主が手放す動物が一匹でも少なくなって欲しいですね。