犬から飼い主へ、子どもから母親への気持ちは同じ種類のもの?
愛犬に対して自分のことをママとかお母さん(またはパパやお父さん)と呼んでいる飼い主さんは多いと思います。呼び方は違っても愛犬のことを子どものように思っている飼い主さんも少なくないですね。
では犬の方は飼い主のことをどのように思っているのでしょうか?ママやパパとして甘えたり頼ったりする存在だと認識しているでしょうか?
このような疑問に答えるような研究結果が、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の研究者チームによって発表されました。
家庭犬の行動と脳の反応を観察して、人間の乳幼児から母親への反応と比較した結果です。犬が飼い主に対して持っている気持ちは、乳幼児が母親に対して持っているものと似ているのでしょうか?
犬の行動を人間の乳幼児と比較
この研究に参加したのは14頭の家庭犬でした。犬たちが参加したのはタイプの違う2つのテストです。1つは様々な状況での犬の行動を観察して飼い主への愛着の度合いを測定するもの、もう1つはMRI(磁気共鳴画像法)を使って、犬の脳の反応を観察するものです。
犬の行動を観察するテストでは、犬にとって見知らぬ人と飼い主の2人が参加して、設定された様々なシチュエーションで犬が示した行動をスコア化して評価しました。
テストは犬にとってなじみのない部屋で行われ、犬が飼い主といる時に見知らぬ人が見慣れない物体を持って入室、飼い主が犬を残して退室、飼い主不在の際に見知らぬ人から遊ぼうと誘われる、飼い主が再び入室する、などそれぞれのシチュエーションでの犬の反応が記録観察されました。
これは犬に軽いストレスがかけられるというテストなのですが、犬たちは心細い時や不安な時に飼い主に寄り添ったり後ろに隠れたりという行動を見せ、飼い主を安全な拠点と見なしていることが分かりました。
また、飼い主が不在になった際に後追いをしたり鳴き声を出す行動や、再会時の喜びの行動からも、犬が飼い主からの保護を求めていることが分かりました。これらは乳幼児が母親に対して示す愛着行動と同じものだと考えられます。
愛着行動とは保護者を特別な存在として識別し、保護者の後を追って笑顔や泣き声などのシグナルによって保護者との絆を強くする行動です。
脳の反応が示す犬から飼い主への愛着
2つめのテストでは、犬に話しかけた時の脳の反応を観察するためにMRI(磁気共鳴画像法)が使用されました。犬たちはMRI装置の中で10分間動かずにジッとしていられるよう、あらかじめトレーニングを受けています。
以前の研究では犬の脳は自分を褒める言葉を聞いたときに、より強く反応することが分かっています。今回は声の主と犬との関係性が脳の反応に影響するかどうかがテーマの1つです。
犬たちは次のような音声を聞かされました。
- 飼い主からの褒め言葉
- 飼い主からの意味のない言葉
- 知らない人からの褒め言葉
- 知らない人からの意味のない言葉
このテストでは意味のない言葉として料理のレシピが読み上げられました。また「知らない人」はテストに参加した他の犬の飼い主の音声が使われました。つまりある犬にとっての知らない人の声は他の犬にとっての飼い主の声に当たるので、反応を比較するのに最適でした。
このテストによって、言葉の内容や声の主との社会的関係を認識する聴覚脳領域が特定されました。音声を聞いた時に反応を示した領域がそれに当たります。
飼い主からの褒め言葉の音声を聞いた時、この領域は最も大きい神経報酬反応を示しました。音声を聞いて犬の脳は報酬を受け取ったと捉え幸福感を持ったということです。
飼い主からの褒め言葉への反応が大きいことは予想通りでしたが、1つめのテストで愛着度のスコアが高かった犬では、飼い主からの意味のない言葉でさえも報酬反応が活発になることが分かりました。
人間の場合、声の主との社会的関係は乳幼児の聴覚や報酬反応などに影響を与えることが分かっています。この点でも「犬と飼い主」「乳幼児と母親」の間の愛着が神経メカニズムにまで影響するという類似性が明らかになりました。
まとめ
犬が飼い主に示す愛着行動や、飼い主の声を聞いた時の脳の反応は、乳幼児が母親に対して示す行動や反応と共通する点が多く良く似ているという研究結果をご紹介しました。
犬が飼い主のことを安全な拠り所と考えていたり、飼い主の声なら意味のない言葉でさえも嬉しいと感じるというのは、胸が熱くなる報告ですね。そして犬からの信頼に応えられるような親の役目を果たせる飼い主でいなくてはと、心が引き締まる思いがしました。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811921007539